第10章 違います
秀吉に連れられ城の広間にやって来た
上座にいる信長は苛立ちを隠す素振りもなく
眉間に皺を寄せていた
『私になんのご用でしょうか?』
広間に入るなり座ることもせず
葉月も苛立ちを隠さずに問いかけた
「お市」
『違います葉月です』
つんっとそっぽを向き訂正をした
「お市、何故館を出た」
『葉月です。
先日も言いましたがもうお忘れですか?
はっきり言わせていただきますが・・・』
すぅーっと息を吸い込みしっかりと信長を見据えた
『私は貴方の駒ではありません
私は私の人生を歩ませていただきます
その為に織田家の館を出ましたし
名前も捨てさせて頂きました。お市はもういません
私の今の名前は葉月です』
「ほぅ」
「へぇ~」
凛と立ち物申す葉月に秀吉は頭を抱え
光秀と政宗は好奇の視線を向けた
「それほどまでに嫁ぐのが嫌なのか?」
『違います。勝手に決められるのが嫌なのです
浅井長政はいずれ織田家を裏切るのですよ?
その様な男のもとへなど嫁ぎたくはありません』
「裏切るだと」
『ええ、同盟を結んだとて数年で裏切りますね』
「お市、何故貴様その様な事がわかるのだ」
『何故ってそんなこと誰でも知って・・・・・』
そこまで喋りはっとして口を手で押さえ
余計なことを喋ったことに気づきくるりと後ろを向いた
「葉月?」
『どうしましょう?』
動揺する葉月に家康が声をかけたが
俯き考え込んだ葉月は気付かなかった