第8章 おいで?
隠れ家を出てみたものの行く宛があるはずもなく
一人で城下町をあるいていた
近くの村に行くとしても
この時代移動手段と言えば徒歩か馬、よくて籠だ
路銀がない葉月では馬や籠は調達出来ない
かといって徒歩では村にたどり着く前に力尽きそうだ
『安土にいる訳には参りませんし
仕方ありません。移動いたしましょうか』
安土城を背にし進んでいった
城下町を抜け少し高台にある
草原までたどり着き後ろを振り返った
『もっと体力を付けなければなりませんね』
すでに日が傾き始めた時間
このまま進めば確実に野宿になるだろう
とは言え引き返したところで
謙信の世話になるのも信長のもとに帰るのも嫌だ
『どうしましょう?』
織田家に生まれなに不自由なく生活してきた
姫の生活は自由の様で自由ではない生活だっが
兄である信長は妹に甘く優しかった
その兄、信長の手紙を機会に飛び出し本物の自由を手にした
そして今、自分の力の無さを痛感していた
『本当にこれからどうしましょう・・・・・』
「なら俺の後殿に来なよ」
『え?』
ポツリと呟いた独り言に返事が帰ってきた
『貴方は・・・・・』
「アンタ隙ありすぎ
そんなんだから誘拐されるんだよ」
驚き振り返ればすぐ後ろに家康が立っていた
暫く見詰めていると草原に風が吹き
葉月は乱れる長い黒髪をおさえた
『・・・・・童ではありません』
ポンと優しく頭に手を置かれ頬を染めた
「うん。知ってる」
家康はフッと笑みを浮かべた
「俺のところに・・・・おいで?」
俯く葉月から林の方へと視線を移した家康は
葉月に聞こえない小さなため息をはいた