第3章 母親
リドルが再びアリスを目にしたのは、発作で医務室に運ばれてから4日後の事だった。いつもの様に朝食を取っていると、近くの席からまたクスクス笑いながらハッフルパフのテーブルを見ている生徒の声が耳に入った。
「ほら、またやってる」
「ホント。まるで乞食みたいね」
その声につられる様に、リドルはハッフルパフのテーブルに目をやった。すると先日と同じようにアリスがパンとカボチャのパイをナプキンに包んでいる。その顔色は初めて会った時よりも青白く、具合が悪そうに見えた。そして籐かごを持って大広間を出て行った。
きっとまた、ふくろう小屋にでも行ったんだろう。リドルは何も見なかったかの様に振る舞った。
その日の午後、『魔法薬学』授業が終わると、取り巻き連中と一緒に地下牢の教室を出て行くと、コルウスとすれ違った。
コルウスはまるでリドルが透明人間にでもなったかのように、無表情のまま視線すら合わせず、地下牢の教室へ入って行った。
いったい何の用だろう――疑問に思ったその時、取り巻き達が言っていた言葉を思い出した。
『それにあいつ、よく地下室にこもっては変な薬を作ってるらしい。なんでも毒薬を作っているって言う噂だぜ……』
少し気になって、リドルは取りまき達に「忘れ物をした」と嘘をついて地下牢の教室へ戻った。
わずかに扉を開け、中をのぞくとコルウスが大鍋を前に、何かを調合しているところだった。まさか本当に毒薬を作っているのだろうか。
リドルの意識がが完全にコルウスに注がれていると、不意に後ろから声をかけられてリドルは思わず叫びそうになった。
「こんにちは、リドル。もしかしてお兄様に会いに来たの?」
「え?あ、いや……忘れ物を取りに来ただけだよ」
声をかけてきたのは他でもない、アリスだった。アリスの顔色はやはり以前より悪かったが、嬉しそうに微笑んだ顔は相変わらず綺麗だった。リドルはその笑顔に思わず見入ってしまった。
「ふふふ、あの優秀なリドルが忘れ物なんて珍しい。そうだわ、どうせ教室に入るならお兄様に挨拶をしてくれる?お兄様ってば友達の1人もいないんですもの」
「聞こえているぞ、アリス」