第10章 「また会う日まで」上杉謙信
「謙信様?」
「戦が起これば危ないだろう。
だから巻き込まれぬよう安全な場所に居れ」
「安全な場所…?」
「あぁ──例えばお前の奉公先の”安土城”、とかな」
フッと悪っぽい笑みを浮かべながら謙信様に言われた言葉に私は驚くしかなかった。
「どうして……知っているんですか?」
自分でも驚愕で声が震えているのが分かる。
今まで謙信様にバレないようにしてきたはずだ。
私が謙信様にとっての敵将、
信長様の元で世話役兼針子として働いていることなど。
今まで会ったときの帰りに送ってもらった時、
いつも大通りまでしか送ってもらっていただけだった。
なのに、どうして?
「バレないと思っていたのか?」
今までに見た事のない冷ややかな瞳に射止められて、
その場から動き出すことができない。
「初めのうちは分からなかったがな。
徐々に会って行くうちに気付いた。
お前は、奉公先を知られないように、
毎度の如く大通りまでで良いと言っていたからな。
そしてお前の行く先にあるのは安土城だ。」
驚愕で動けない私を見越してか、
謙信様はそっと私の腰に手を回し、
今まで以上の近い距離で私を見下ろしていた。
「あ…あの?」
戸惑っている私の耳にその綺麗な顔が近づいた。
かと思えばそっと低い声でこう言われたのだ。
「次会った時は、お前を春日山城に連れ去る」
【the end】