第1章 「花の香り」 徳川家康
あの子がこの時代に来て初めての春。
春が訪れる少し前、
あの子から「春になったら、お花見しようね」と顔を綻ばせて、
俺に言う舞の姿は暖かい春風を連想させた。
それから俺も舞も忙しい日々を過ごして、
やっと二人きりでお暇の日が取ることが出来た。
「わぁ~!すっごく綺麗だね、家康!」
いつもなんとも思わず横目で見ていた、
桜の木々をとても花を咲かせるような笑顔で、
見渡しているものだから俺も無意識に表情が緩んでしまったのがよく分かる。
桜吹雪が俺たちを襲ったとき。
舞が桜吹雪に呑まれて消えてしまいそうで、
俺は堪らずその小柄の体を身に寄せた
「わっ!家康…?」
俺の腕の中で背を向けるようにしていた体を動かして、
こちらに体を向け不思議そうに首を傾げていて、
そんな姿が堪らず愛らしくて、
今まで突き放してきていたあの頃の自分からすれば、
こんな些細なことでも愛らしいと思うほど、
もうこの子にこんなにも心酔してしまったのかと、
自分でも本当に可笑しくなってしまった。
「家康はお花って好き?」
急にそんなことを聞かれて呆気にとられてしまったけど、
舞の瞳はどこか悲しげだった。
「花なんか別に好きじゃなかった。けど」
「けど?」