第3章 ラブリーディストーション(徳川家康)
「考え事なんて、余裕だね」
大好きな声と、身体中を疼かせる突然の衝撃に、また声を上げ身を震わせる私を。
彼は薄く笑ってみている。
いつの間にか身体を起こし、私の腰を固定するように押さえ。
「ねぇ、どうして欲しいの。
言ってみてよ」
また、意地悪な事を言う彼を、私は涙混じりの目で見つめる。
どうしたいか、正直に言えば手に入るのだろうか…
そんな考えがふと頭を過ぎった。
自分で願った形なのに、切なくて、馬鹿みたいに泣けてくる。
「家康が、欲しいっ…!」
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事が終わり。
一人身支度をする俺に、ぽつぽつと独り言の様な声がかけられる。
「家康、その…今夜も、有難う。
たまには、ゆっくりしていったらいいのに」
「…何言ってるの。
恋人でも無いのに、そんな事出来ないでしょ」
「…それも、そうね」
寂しそうに、今にも泣き出しそうな顔で俯くを見ていられず。
急いで身支度を終え、俺は部屋を後にする。
抱き合って眠るなんて。
優しい言葉をかけて、キスしてやるだなんて。
今の俺が何をしたって、「そういう狙い」に取られてしまうんだろう?
そんな事は絶対に許せないし、許されない。
「おやすみ、」
別れの挨拶を口にして、踵を返すと。
啜り泣くような声が小さく聞こえた…断ち切るように、わざと音を立てて扉を閉め。
手近の壁をどん、と殴った。
地位も名誉も、欲しいけれど。
それとあんたが欲しい気持ちは、別物なんだ――
そんな陳腐な台詞が浮かんで、苦笑した。
いつか伝える、けれど、今じゃない。
その日の為に、身体だけでも繋ぎとめようなんて…
馬鹿げているけれど、止められない。