第31章 謝罪と花見と、紅と隙と
——point of view 波風ミナト
彼女が、俺の家で暮らす事になった。
でもそのやり方は…少し汚かったかも。
強引に。巧妙に。カカシを出し抜いて。
彼女の優しさに漬け込んで。
分かっている。卑怯だって。でも、ことエリに関して言えば、俺は何にだってなれた。
卑怯者にだって。ピエロにだって鬼にだって。
そしてずっと、考えていた。エリに謝りたいと。
君が人質に取られた時に、すぐに里を飛び出せなくてごめん。
カカシみたいに、体面もなんもかんも全部かなぐり捨てて…助けに行けなくてごめん。
って。今日こそは、君に言う。
こんなふうに言われたら、君は俺の事をどう思うだろうか。
人は誰しも、自分を一番に思ってもらいたいと考える生き物。まして女性なら、何においても自分の事を愛して欲しいと思うだろう。
君は、俺に幻滅してしまうかな。
俺を嫌いになってしまうかな。
そんな気持ちが、今の俺の中の全てだよ。
この心全部、たった一つの事柄で埋め尽くされてる。
そうだよ。俺は君に愛想を尽かされる事を、恐れているんだ。
それが、俺が世界で唯一、今怖いと思う事物。
我ながら情けなく、小心者になったと思うね。
でも、落ちたとは思わない。
だって、人を愛するってきっとそういう事だろ。
俺は自宅のドアノブに手を掛ける。
しかし、はた。と思ってしまった。
もし、彼女が居なかったらどうしよう。鍵は渡した。荷物も運び入れた。そして昨日はちゃんとそこにいて、間違いなくこの手で抱き締めた。
でも、それが、全部夢で。
俺の妄想で。なかった事になっているかも。
いやいや、と。
俺は薄い笑みを浮かべる。
そんなわけはないじゃないか。彼女はきっとまた俺の為に美味しい料理を用意してくれていて。あの可愛らしい笑顔で出迎えてくれるに決まっている。
いやでももしも…
こんな風に、家の中の様子をあれこれ想像して このドアノブを回すのは、一体いつぶりの事か。
期待と不安を抱えながら、俺はついにノブを回した。
“ た、ただいま… ”