第3章 苦しみと決意と
───ヨコハマの街にも夜の帳がすっかりと落ちた深夜25:00。
太宰治はとあるバーで二人の男性と酒を酌み交わしていた。
「最近どうなんだ。久しぶりにあの少女が戻って来たんだろ?」
銅褐色の髪をした背の高い男性が太宰に問う。
「織田作、聞いてくれ給え!
そうなのだよ!もう可愛いったらありゃしない。
私が澪と居るのを見て嫉妬するんだ。」
恍惚とした表情で語る太宰はその状況を楽しんでいるようであった。
「太宰くん…やり過ぎは酷いですよ。
きっと繊細な彼女の事だから傷付いてますよ。」
黒縁眼鏡に生真面目そうな男性が太宰を窘める。
「チッチッチッ…安吾は解って無いなぁ。
これも良い刺激になるのだよ。」
グラス越しに安吾を見る太宰の顔はほんのりと赤く染っていた。
「まぁでも程々にしておけ。奏音、今日の昼間、黒蜥蜴の本部に居たぞ。」
作之助はグラスを宙で揺らす。
すると、グラスの中の氷がカランと音を立てた。
「え?そうなのかい?
そんな話、私聞いて無いのだけど。」
「まぁ奏音の事だから云え無かったんだろうな。」
「ふーん。」
太宰は唇を尖らせ、カウンターに顎を付けて足をぶらぶらとさせる。
まるで拗ねた子供の様だ。
それから数分後、不意にカツカツとヒールの音がバーの中に響く。
「すみません。此処に治……
あ!居た。ほら、明日の東方遠征の準備しなくていいの?」
澪が太宰を訪ねて来たのだ。
「太宰くん、お迎えじゃないですか。
早く明日の準備、してください。」
安吾はふぅ…と息を付きながらグラスを仰ぐ。
「安吾、織田作、久しぶりね。
中々会えないから生存確認も出来ないわ。」
冗談目化して云う彼女は、少し心配していたらしい。
「澪…私は後で帰るから。
先に帰ってていいのだけど。
そもそも…迎えは頼んでいないのだけど?」
急に冷めた声で太宰はそう告げる。
「え…あ、ごめん…。
解った。先に帰ってるから。」
少し目を見開き驚いた後、状況を把握して澪は直ぐに帰って行った。
「私が迎えに来て欲しいのは奏音だけなのだけどね…………」
そう呟いて、太宰はその場で眠ってしまった。