第3章 三人の子供達
幸村様の長男である太郎が産まれて、気付けば、五年の歳月が過ぎていった。
その間に次男の次郎が産まれ、わたしのお腹には、桃を入れて、四番目のややがいた。
この五年の歳月は、時代の大きな転換期でもあった。
薬師が驚く程の回復力で信玄様が快癒されたと言っても、信玄様の上洛、各地での内乱。
天下泰平と言えるには、程遠い状況だった。
しかし、信玄様が甲斐から駿河へ移城され、駿河に幕府を築く頃になると、日ノ本の内乱も収まり、やっと天下泰平の世と言えるべき時代になった。
真田も、上田城から、大阪城へと移城し、西の日ノ本の要の城と呼ばれるようになった。
大阪城から、京の実家が近くなった為、わたし達親子は、京へ度々行く事が出来るようになっていた。
幸村様は、実家の母を気遣って、大阪城近くへ来て住む事を勧めて下さったのだけれども、気丈な母は、京でしっかり者となった弥彦と一緒に小料理屋を続けている。
有難い事に、京の実家の小料理屋も天下泰平の世となり、以前よりも、ずっと繁盛している。
「母上、佐助兄ちゃんと川に鮎を取りにに行っても良いですか?
」
太郎が、台所で甘味を作っていたわたしを見つけて、庭先から走って来て言った。
「太郎、貴方に鮎釣りはまだ早いですよ。見るだけならば行って良いけれども。見るだけだと母上と約束出来ますか?」
「はい!母上様、佐助兄ちゃんも、見るだけだと仰いました。太郎は、佐助兄ちゃんが鮎を釣るところが見たいのです!」
わたしは、目をキラキラと輝かせて言う太郎に、幸村様の好物のドーナツを佐助くんの分もたくさん持たせて、夕餉の時間までに戻る約束をさせ、鮎釣りに行く事を許した。
佐助くんは、五歳になった太郎の良き兄の役目を良く果たしてくれていたし、佐助くんが一緒であれば、安心だと思ったからだ。
実際の所、二人は、本当の兄弟に見える程仲が良かった。
佐助くんも、天下泰平の世となり、佐助さんと共に暮らし、商人の子供の様になって読み書き、ソロバンも出来る子へと成長している。
佐助さんは、元々商才が合った様で、城下で、異国の地の物を売る店を開いてとても繁盛していた。
佐助くんは、寺子屋にも、太郎の兄の様に連れて行っては世話を焼いてもくれていた。
わたしが、太郎と台所で話しをしていると、鍛錬を終えた幸村様がやって来た。