第14章 雛段
今年も雛祭りがやってきた。
「なんで俺が男雛やらなきゃいけないんだよ?」
「仕方ないだろ、今この町内で独身男は和也だけなんだから…
次の日曜日だから逃げるなよ」
和也は雛祭り実行委員で悪友の亮治に釘を刺され、渋々承諾した。
和也の住む町では、町興しのために毎年人間雛飾りを行っている。
内裏雛は町に住む独身成人男女がやることになっていた。
「なぁ亮治、女雛は誰がやるんだ?
俺の知ってる奴か?」
「秘密だ、秘密
当日を楽しみにしていろ」
亮治は含み笑いを残し去っていった。
そして雛祭り当日、和也は衣装を着せられ雛段の一番上に座らされていた。
「どうだ和也、良い眺めだろ」
「こんな堅苦しい格好じゃなきゃな…
で、女雛はどうなってるんだ?
いったい誰が来るんだよ?」
「今支度中だ、見たら驚くぜ」
亮治は笑いながら雛段を下りていった。
和也は頭を傾げた。
(俺が驚く女って…?)
雛段には次々と見知った近所のおばさんやおじさんが、三人官女や五人囃子に扮して位置に座っていった。
みんな和也を見てニヤニヤとしている。
それに気が付いた和也は何か居心地が悪く苦笑いしか出来なかった。
(何なんだ、この雰囲気は…)
最後にやっと女雛役の女性が上がってきた。
女性は俯いたまま女雛の位置に座った。
和也は横を見て息を飲んだ。
(き、綺麗だ…けど…誰?)
更に頭を傾げた。
「久しぶりね、和也」
「へっ?…俺のこと知ってるの?」
「知ってるわよ
小さい頃、この雛段見て『俺が男雛やるから、お前は女雛な』ってはしゃいでたわよね」
和也は彼女を見つめたまま固まっていた。
「お前…まさか…恵里か?…帰って…」
「やっと気付いたの?
和也らしいわね」
恵里が微笑むと周りから『おめでとう!』と歓声が上がった。
end