第44章 トドカナイオモイ『前編』❥豊臣秀吉
私が好きになった人には。
もう、好きな人がいた。
「華!」
そう愛おしそうに呼ぶ私の大好きな人。
それは、私に向かってではなく。
同じ名前の、別の人に向けられていた。
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「華!」
「!」
その声に私は咄嗟に振り返る。
だけど声をかけた主は私ではなく他の人に目線が向いていた。
(はぁ....)
またか、と私は肩を落とす。
私が働いているのは信長様のいる城。
安土城だ。
もともと乞食だった私を、秀吉さんが助けてここに置いてもらっている。そうして私は針子としてここで働かせてもらっているのだ。
秀吉さんが助けてくれなかったら今頃私はどうなっていたのかも分からない。
だからこそ、一番秀吉さんには感謝している。
それに加えて、私が想っているのも....秀吉さんだった。
(まさか、同じ名前の人が来るなんてなぁ....)
ニ月ほど前。
大きな雷とともに現れたその女の人は、私と同じ名前の、「華」と名乗った。
もちろん、そのときはびっくりしたし、まさか同じ名前の子がいるなんてくらいに軽く考えていた。
だけど....
その子は、秀吉さんと、恋仲になったんだ。
私と同じ名前、「華」を名乗ったその子は、安土城に置いてもらうとすぐに周りの人と打ち解けた。
明るく、真っ直ぐな性格。
それにみんなが魅了されていった。
私もそのうちの一人。
そして一番嬉しかったのは、その子は私と性格がとても似ていたこと。
明るくて、誰とでも仲良くなれる。
そんな部分が私ととても似ていた。
そして針子部屋で働くようになったその子はとてもきらきらと生き生きと仕事をしていた。
だからこそ仲良くなって、この先もこうしていられると思っていたのに。
つい先月に。
「あのね、私秀吉さんと恋仲になったんだ。」
と、聞いたとき頭の中が真っ白になって何も考えられなくなった。