第40章 伝えられない真実『前編』❥徳川家康
「くそ、今日も失敗か....」
未だ誰も見たこともない花を作る、と心に決めてからはや数ヶ月。
俺は見事に挫折しかけていた。
何度やっても上手く行かず、
何度やっても咲くのは見たことある花ばかり。
でも、そういうときに思い出すのは....
(... 華)
あの、華の顔だった。
あれから頻度は少なくなっているものの、俺の庭園の花を取りに来ている華は毎回俺のところに顔を出すようになった。
『家康さん』
そう呼ぶ華の声が、いつのまにか、俺の希望の光になっていた。
俺もいつしか、華が花を盗みに来ている、という真実より会えることに喜びを感じていた。
(...今日は、来るかな)
そういえば最近はあまり顔を出していない。
この前顔を出したのは一週間ほど前だっただろうか。
あのときも華は夜の闇に似つかない太陽のような笑顔を見せて帰った。
そして、華が来るのを待ちながらも....
俺は必死に花を作ることに専念した。
そして。
「で、きた....!!」
あれからさらに一月後、俺は昼間にひとり歓喜の声を上げた。
目の前に咲いているのは、吸い込まれそうな黄色と青が混じった色の薔薇。
薔薇といっても棘はなく、花の部分だけが薔薇の形になっている。
(やっと、やっと...!!)
あの子に、見せられる。
あれから一度だけ来た華はまたいつものように花を取ったあとに、俺に近寄った。
でも未だに、顔は見せていない。
いくら華に浄化されたかと言っても、きっとまだ醜いであろう自分の姿を華に見せるのは怖かった。
そしてその日も、日々の花づくりの疲れを必死に隠して声を出していた。
しかし、華は声で気づいたようで...
『あれ、家康さん、声ちょっと疲れてませんか...?』
『え...どうしてそう思ったの、』
『いえ、私そういう人の疲れとかだけは敏感に読み取れるんですよ、大丈夫ですか?』
『うん、大丈夫。ありがと。』
『分かりました...じゃあまた、』
そんな会話を交わしてその日は終わった。