第39章 SWEET TALKER ❥豊臣秀吉
「華!」
貴方はいつもそうやって私の名前を呼ぶ。
「どうしたの?」
私がそう言えば。
「いや、お前をみつけたから嬉しくてな」
とにこっと笑みを浮かべる。
「っ...」
私はそれにどくんと心臓が鳴るのに。
「じゃあもう行くな。またあとでな。」
と言ってすぐに背を向ける。
(....行かないで。)
そんな言葉が言えるはずもなく。
私はそこで立ちすくむ。
それが、私の最近の困りごととなっていた。
(また、行っちゃったなぁ...)
私は秀吉さんの去っていく背中を見てひとつため息をつく。
(私に会えて嬉しいって....期待しちゃうでしょ)
私の好きな人の秀吉さんは、いつも私の頭を悩ませる。
こうして秀吉さんを見送っている間でさえも頭の中は秀吉さんのことでいっぱいだ。
だけど....
秀吉さんは絶対に私に想いを返してくれない。
何故なら秀吉さんは...私のことをなんとも思っていないからだ。
(....あれだけはっきり言われると思わなかったよね...)
そう思いながら、私はこの前のことを思い出していた。
『ねぇ、秀吉さん、私のことどう思ってるの?』
それは、つい先日の話。
私は思い切って秀吉さんに思いを確かめるべく大胆な質問をした。
その質問に秀吉さんは暫しの間驚いた顔をしていたが...
その次の瞬間には、笑顔になってこう言った。
『大事な "仲間" だ。あいつらと同じだよ。』
その時の私の落ち込みようは凄かったと思う。
あいつら、が指す人物はきっと安土の武将だろうが...
もちろん好き、という感情を抱いてくれているとは思っていなかった。
だけど、恋愛対象くらいには入っていると思っていたのに...
もはや、周りの武将たちと同じ扱いをされるとは思っても見なかった。
(私はこんなに好きなのに。)
私はもう見えなくなってしまった秀吉さんの姿を思い浮かべて、
縫い付けるように止まってしまった足をもう一度動かし、もともとの用事へと戻っていった。