第20章 桜記念日『後編』❥真田幸村
私は、身震いした。
「え、どうして信長様が、幸村のことを...」
私はそう聞くが、
「まぁ、詳しいことは言わなくても問題はなかろう。」
と、退けられてしまった。
「まあ、強いていえば、無表情な忍びのおかげ、とでも言っておこうか。」
信長様はまた笑った。
「っ、信長様は、私が行ってもいいんですか?」
「あぁ。貴様はどこへ行っても俺の幸運を運ぶ女だからな。」
そして、信長様が言う。
「さあ、行け。貴様の愛した男の元へ。」
「っ、行けって言われても、何処に...」
私は、そこまで言ってはっ、と言葉を切った。
脳裏に浮かぶのは、
幸村と、初めて会った、あの、桜の木____
私はすくっと立ち上がった。
「っ、信長様。私、行ってきます!!」
「あぁ。行け。」
信長様は優しい目をして言う。
(信長様、ありがとうございます...信長様の事は、一生忘れません。)
私は天守から飛び出ながらそう思った。
...いや、感謝するのは信長様だけじゃない。安土で暮らして、本当に楽しかった。落ち込む暇なんてないくらい。
それもこれも全部、武将達のおかげだ。
____みんな、ありがとう。
その想いを胸に閉じ込めて、私は幸村のもとへと、愛した人のもとへと、駆け出した。
その頃。
「おい、佐助。聞いていたのだろう。知っているぞ。」
信長が独り言のように呟く。
すると。
天井裏をがたっと外して忍びが一人降りてきた。
「さすが、信長様。眼力はすごいですね。...でも、良かったんですか。」
「何がだ。」
「華さんを、行かせたことです。信長様も、華さんの事が...」
そこまで言うと信長は佐助の声を切った。
「...言うな。野生の勘とは恐ろしいものだな。」
そこまで信長は言うと、ふっと笑った。
「俺は、愛した女が幸せになれば、それで良い。」
遠い目をして。
今では届かない想いを胸に閉じ込めた。
「...凄いです。信長様。」
そんな第六天魔王を見ながら、佐助はそっと呟いた。