第7章 キャッホーな奴には少し早い待ち合わせ時間を教えておけ
これだけの人間を率いているにも関わらず、この群から気配を感じ取るのは至難の技であろう。全く奈落とはよく飼い慣らされた烏だ。
だが、感じられないのはただの人間。
戦場に生きる獣の鼻は騙せない。
朧の率いた奈落の軍の後ろを、皐月が更に軍を固める。
「朧様、どうやらあの人の弟子たちにご執心のようですね。」
彼女のすぐ後ろを歩くハルが呟く。
それを嗜めながら進む林の中。
「…兎が二匹だ。」
彼女の合図に背後にいた群から何名かが、目にも止まらぬ速さで林の奥へ消えていった。と、ほぼ同時、メリメリという痛々しい音とともに大木がこちらに倒れてくる。
「こりゃ、晋助の言う通りだったか。」
皐月さん、と笑う神威はかなり怪我を負っているようだった。いつも結っている髪が解け、腹部からの出血はまぁまぁ多そうだ。そんな彼の隣には、同じ髪色と瞳色をもった少女。ふと、阿伏兎から吉原で聞いた話を思い出した。
「君があの噂の妹か。兄とそっくりだな。」
「止めてよ、こんなのと一緒にするのは。」
彼女が合図するまでもなく、ハル以外が二人に飛びかかった。皐月はそれが無駄な事だとよくわかっていた。
「全く、何の歯応えもないよ、こんなの。」
妹と一緒にまだピンピンしている彼らをみて、彼女は林の中さしていた傘を閉じ、ゆっくりと歩き始める。
「さて、神威。その傷で僕とやるか。こんにゃく位の歯応えがあればいいがな。」
「…誰アルか。」
「止めとけ。あれは俺のだ。」