第2章 思い出さなくても良い思い出もある
「皐月様、如何なさいますか?あんな派手にされては気づかれるのも時間の問題ですね。」
夜兎でありながら第七師団どころか、何処の師団にも属さない。たった一人の従者だけを連れて歩く彼女は春雨の密偵役。任務も仕事も完璧な上、暗殺、戦闘もずば抜けた能力を持つ皐月には、アホ提督も手に余る様子であったが、元老院から直接彼女を預かっていたため、下手に手を出せず野放し状態であった。
「どうせ話し合いだけで済む様な奴等じゃない。構うだけ時間の無駄だ。」
神威ら第七師団と旦那は僕が見ているから、君は百華の動きを追っていてくれ、と言いながら連絡の取れる機器を従者ーーハルに手渡した。それと交換に、ずっと手にしていた皐月の番傘を渡す。
「了解いたしました。どうかお気をつけて。」
静かに頭をさげると、青年は裏道の方へと抜けていった。
それを見送った後、彼女は吉原の奥へと歩みを進める。この街を全て見下ろせる場所。旦那と吉原の太陽がいる一際大きな遊郭へ。