第3章 春休み明けの女子と夏休み前の男子はセットで気をつけろ
雲ひとつない空に、ぽつんと満月が浮かぶ。
虫の音ひとつしない夜道を、三人の少年が歩いていた。
「……先生が、そんな事する訳ないだろ。」
高杉が腰に下げた木刀を握りながら呟く。
銀時はそれに何も答えなかったが、同じ事を考えていた。
「俺もそう思う。だからこそ、こうして今いるのだろう。」
近頃、役人やら名家の当主やらが、何者かによって暗殺されているらしい。絶妙なバランスで関係を保っていたその者たちは、均衡の崩れた今、松陽に構っている余裕が無くなっていたのだ。
「確かに、上手くうちから意識が外れるように仕組まれてやがる。」
「うむ。今はまだ良いが、少しでも事が落ち着いてみろ。一番に疑われるのはこちらだ。」
二人が話をしている間も、銀時は黙っていた。
桂から神社で話を聞いてから、毎晩見回っているが何も起こる様子はない。そして相変わらず皐月は顔を見せない。
「今日もここまでにするか。」
何も掴めないまま、桂が解散を決めた。
どこか腑に落ちないものを抱えたまま分かれ道にて、三人背を向け歩き始める。
家へ帰る途中、銀時は神社のある道を歩いていた。
田んぼ近くだというのに、異様に静かであった。
そこへ不意に風が吹き抜ける。
「!?」
それにのって、微かに血の匂いがした。
反射的に銀時は神社の方へ走り出していた。
まだ松陽に拾われる前、散々その匂いの中で生きてきた銀時には馴染みのあるものだった。しかし、経験した事のない胸騒ぎを感じる。これほど階段が長いと思った事はなかった。
気のせいであれ、と願いながら駆け上がった先。
普段さしているものを閉じ、拝殿の前で満月を見上げる皐月の背中があった。
月明かりに照らされたその姿は、さながらかぐや姫だ。
優しい風が、彼女の美しい白髪を撫でる。
「……何してんだ。」
思った以上の低い声に自分でも驚く。
少しずつ近づいたところで、銀時は恐ろしい事に気がついた。
番傘の色で分かりにくかったが、よく見ればそれは血に濡れている。美しいと思っていた髪の先、白い服の裾からも赤が覗いていた。
「……もう、君たちには会わないつもりでいたんだがな。」
静かにそういった声は、どこか少し寂しさを感じる。
振り向いた彼女の綺麗な顔は、真っ赤な返り血を浴びていた。
