第11章 夜と罪
だが、ここは戦場。
どうしても簡単には先に進ませてはくれないらしい。
本当なら高杉を横抱きにして走っていきたいところだったが、彼の強い意志でそれを拒否されてしまった為、仕方なく肩を支えながら歩いていたところを、四方奈落に囲まれてしまった。
どうやら中々手強い下の階にいる者たちの所へ向かおうとしている最中の隊に出会してしまったようだ。
これには高杉も少し顔をしかめた。
しかし、その横にいた皐月は冷静だった。
そっと、上を向く彼女。何かを確認しているようだった。
「皐月、」
「今から、君を上に放り投げようと思う。」
「………は?」
こんな状況でなにを言い出すかと思えば突拍子もない事だった。
「上に気配をなにも感じない。全兵をここにぶつけたようだ。これより上は安全なはず。」
奈落の相手は慣れているしな、とどこか楽しそうな彼女に高杉は静かに聞いた。
「……死ぬつもりか。」
どう見たって数が多すぎる。いくら夜兎であり奈落の烏だったとはいえ、この数に一斉にこられては無事では済まないだろう。
でも、彼女はそれでもよかった。
もう、彼をここまで見送れたら、それでよかった。
そんな感情が顔に出ていたのかもしれない。
高杉は一つ息を吐くと、懐から何かを取り出して皐月に差し出した。
「……煙管?」
喫煙者でない彼女には馴染みのない代物だった。なんだってまたこんな時に、と思って彼をみれば、受け取る前に無理やり胸元の服の間にそれを差し込まれた。
「いいか?約束だ。それがねぇと俺ぁ落ち着かねぇ。だから、生きてそれを返しにこい。一服するくらいはゆるしてやらぁ。」
それを聞いて皐月は目を見開く。
だが、動かない二人へ遂に奈落が襲いかかってくる。悠長に会話をしている余裕も無くなってしまった。
「しんすけ、僕は、」
「皐月、俺ぁ、お前に会えて良かったぜ。」
おら、一思いに投げろ、と少し笑っていう高杉に、彼女は何も言えなかった。何かを返すには、時間が足りなかった。
彼女たちの目の前に無数の刃先が迫った瞬間、皐月は頭上へ何発か発砲し、そこへ高杉を投げ上げた。
これが、彼女と高杉の最後だった。