第2章 scene1:教室
いつも思う…
スカートってのは、どうしてこうも足がスースーするのか、って…
にも関わらず真冬でも生足とかさ、女子って良く平気だよね?
でもきっとそれなりに工夫したりして、苦労したりもしてんだろうな…
僕は膝上15センチはあるだろうスカートの裾を、少しでも長くしようとウエストを僅かに緩めた。
そんなことをしたって、スースーするのに変わりはないんだけどさ…
僕は小さく溜息を零してから、スタジオとして用意された教室のドアをノックした。
ガラッ…と、今にも外れてしまいそうな音を立てながらドアを開き、
「おはようございます」
通常よりも、若干高めに設定した声で業界特有の挨拶をすると、その場にいた者全て(…っていっても片手で足りる人数だけど…)の視線が僕に集まった。
普段の僕なら絶対にありえない事なんだけど、僕はこの瞬間が嫌いじゃない。
どうやら、メイクをして、衣装を身に着けた僕は、外見だけではなく、性格まで別の人間になってしまうようだ。
「HIME、あそこにいるのが、今日の相手役の相葉さんだ」
長瀬さんが僕の耳元で、台本片手に窓辺に立つ長身の男を指で差す。
「へぇ…、けっこうイケメンじゃん…」
それに凄く爽やかで、一見すると優しそうだし…
こんな特殊な業界じゃなくても、普通に俳優やモデルとしても通用しそうな感じなのに、どうして…?
「ご挨拶してくる」
僕はその風貌から受ける印象と、このある種アングラ的なこの仕事とのギャップを感じながらも、スカートの裾をヒラヒラと翻し、相葉さんに駆け寄った。
「おはようございます、今日は宜しくお願いします」
長い髪を揺らし、視線を振り向いた相葉さんから外すことなく頭を下げる。
勿論、声の設定は高めでね?