第19章 scene4:宴会場
キシキシと、今にも床が抜け落ちちゃいそうな廊下をペタペタとスリッパを鳴らしながら、宴会場へと向かう。
僕達以外に宿泊客もいる筈だから、擦れ違う人がいても不思議じゃないのに、何故だか宴会場に向かうまでの道程に、人の姿は全くない。
もしかして僕、迷子になっちゃったとか?
でも、いくら迷子って言ったって、宴会場は同じ建物の中にあるんだから、どう考えたって迷子になんてなりようがない。
僕はたまーに壁に貼られている矢印が指し示すまま、ズンズンズンズン奥へ下へと歩を進め…
「あ、ここかな?」
”坂本様御一行様宴会場”と書かれたプレートが掛かった部屋の前に立った。
襖を挟んだ中からは、聞き覚えのある声がしている。
でも不思議なことに、宴会場の周りには旅館のスタッフらしき人は、誰もいなくて…
僕は本当にここで合ってるのか、ちょっぴり不審に思いながらも、そーっと襖を開け、中を覗いた。
すると、中には坂本さんをはじめ、長瀬さんやら、見知った顔のスタッフさん達が浴衣姿でテーブルを囲んでいて…
お肉?お魚?、何かが焼ける香ばしい匂いまで漂っていて、お饅頭を食べて大人しくなった筈の僕のお腹が、キュルッと音を鳴らした。
僕は着崩れた浴衣の襟と裾をササッと直すと、
「お待たせしましたぁ♪」
可愛らしく小首を傾げつつ、宴会場の中へと入った。
「HIMEちゃん、こっちこっち」
待ってましたとばかりに、助監督さんが手招きをして、僕を坂本監督の隣りに座らせる。
「ちょっとは休めたかい?」
「え、あ、はい」
別に”恋人”ってわけでも”彼氏”(←どう違う?)ってわけでもないけど、ずっと櫻井くんと電話してたなんて、言えないもんね?
「そうか…それなら…」
坂本監督が僕にグラスを差し出し、僕がそれを受け取ると同時に、グラスにビールが注がれた。
「まあ、この後もまだ撮影も残ってるから、存分にってわけにはいかないが、ちょっとくらいは良いだろ…」
ふふ、やったね♪