第13章 scene3:待合室
暫くの間NINOとスマホ上でトークをしていると、メッセージの入力が面倒になって来たのか、
『直接会ってお話しない?』
とNINOの方から言って来た。
手先は器用だけど、超機械音痴な僕にとっては願ってもないことだけど…
『ごめんなさい…、HIMEまだ現場なの…』
まだ長瀬さんも城島さんも戻って来ないし…
このままだといつ帰れるか分からなくなりそうなんだもん。
『だから今日は無理かも…』
内心残念に思いながら僕が送ると、
『分かったわ。じゃあ明日はどう? 一緒にランチでもしない?』
ほぼ同じタイミングでNINOから返事が返って来た。
まるで僕がそう答えるのが分かってたみたいにね。
そして続けて送られて来たメッセージに、僕はお気に入りのフワモコブランケットを跳ねのける勢いで飛び起きた。
「いっ…たぁ…ぃ…」
ヘンテコリンな診察台の上に長時間拘束されていたせいか、腰がズキンと痛んだけど、そんなことも気にしてらんない!
だって、“お互いすっぴんで”なんて…
嘘でしょ…?
だって僕NINOの素顔なんて知らないし、NINOだって僕の素顔は知らないのに…
なのにすっぴんで、って…
でも良く考えたらそうだよね?
これでも僕達、一応芸能人の真似事してるわけだし、ごく一部の人達(その界隈の人達ね)にはお顔も知れてるし…
いくらプライベートとは言え、HIMEの姿のままで会うわけにはいかないか…
僕はHIMEに似たキャラクターが、OKと書かれたプラカードを持ったスタンプを送り、NINOとのトーク画面を閉じた。
仕方ないよね?
だってバイトも休みだし、断る理由なんて僕にはないもん。
第一、こんなモヤモヤしたまま、櫻井くんと顔なんて合わせらんないしね。
「はあ…、やっぱりシャワーくらい浴びて来れば良かったかな…」
僕は松本さんの残り香の染み込んだナース服を脱ぐと、ウエストの締め付けがない、フワッとしたワンピースに着替えた。
『待合室』ー完ー