第11章 scene3:病院
僕は戸惑いながらも、櫻井くんに向かって右手を差し出した。
だって今の僕は、“智”じゃなくて“HIME”なんだもん。
AV界に彗星の如く現れた“男の娘”女優の“HIME”なんだもん。
そうよ、恐れることはないわ!
僕は、僕の右手を握った櫻井くんの手を、もう一方の手で包み込むと、
「いつもHIMEのこと応援してくれてありがとう♡」
得意の“HIMEスマイル” で櫻井くんを見つめた。
「あ、あの…、俺…、等身大の抱き枕も持ってて…」
「へ、へえ…、そう…なんだ?」
「それで、毎晩一緒に寝てるっつーか…」
うん…、知ってる…
だって僕、ちょっと嫉妬したもん。
抱き枕だって分かってるけどさ、HIMEの姿をしていても、“僕”だってことには違いないんだけどさ、櫻井くんが見ているのが“僕”じゃなくて“HIME”なんだって思うと、やっぱり嫉妬せずにはいられなくて…
…って僕、櫻井くんのこと、相当気になってるみたいじゃんねぇ?
ダメダメ…、今は“HIME”でいることに集中しなきゃ!
「あのぉ…」
櫻井くんの手を解放して、僕は松本さんに視線を向けた。
「今日のHIMEの衣装…、どうですか?」
僕は短いスカートの裾を摘むと、その場でクルリと回って見せた。
僕の中に挿ってる“ソレ”の存在もすっかり忘れて、クルクルと…
当然、僕が動けば、“ソレ”も同じように僕の中で華麗なターンをするわけで…
「ひゃっ…、だめぇ…」
僕は櫻井くんが見ている前で、とんでもなく甲高くて、甘い声を漏らしてしまった結果、耳まで真っ赤になってしまって…
「くくく、そろそろ始めた方が良いのかもね?」
僕の反応に目をキラリと光らせた松本さんが、軽々と僕を抱き上げた。
「えっ…、あの…、松本…さん…?」
僕は咄嗟に松本さんの首に腕を回すと、落っこちないようにしっかりとしがみ付いた。
そうして僕が運ばれた先は…
『病院 』ー完ー