第3章 夏景色
会社が盆休みになると、俺は妻と息子を連れて帰郷した。
バスを降りると、長閑な田園風景に心地好い風が渡る。
俺が躊躇っていると妻が背中を押す。
「大丈夫だよ」
その一言で一歩を踏み出せた。
数日前にお袋宛てに手紙を書いた。
盆休みに家族を連れて帰ると。
もちろんお袋が親父にも知らせるだろう。
勘当同然で飛び出した俺を許してくれるのだろうか?
俺はずっと不安げな顔をしていたのだろう。
妻の顔を見ると涼しげに微笑んでいた。
実家の近くには、あの向日葵畑がまだあった。
息子はたくさんの向日葵に大はしゃぎだ。
まるであの頃の俺のように。
そして向日葵越しに見える実家の前には懐かしい顔が見える。
お袋が出迎えてくれた。
妻と息子を紹介し家に上がる。
居間では親父がテレビを見ていた。
「親父、妻の小夜子と息子の啓太だ」
俺は俺の家族を紹介した。
親父は一瞥すると立ち上がり居間を出て行こうとした。
「おじいちゃん、僕、啓太です
おじいちゃんの名前も啓って字が入ってるんだよね
お父さんに聞いたんだ」
息子の言葉に親父が振り向いた。
「そうか、啓太か…」
親父は目を細めて啓太の頭を撫でた。
「…ゆっくりしていけ」
その言葉に俺はただ頭を下げるしか出来なかった。