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終わりのない夏

第2章 東京に埋もれる


古いアパートの一室で一人暮らしを始め、小さな商社に就職した。
何のコネもない田舎の高卒者を雇ってくれる会社なんて、そんなにある訳じゃない。
雇ってくれただけでも有り難いと思った。

一人暮らしでは慣れない家事に四苦八苦し、お袋の有り難みを改めて感じたりもした。
毎日、毎日、スーツにネクタイで営業に走る。
そんな中、営業先で知り合った女性に引き寄せられた。
一目惚れだ。
紆余曲折はあったが彼女と結婚。
何年かは共働きだったが、待望の長男が産まれ、妻は専業主婦になり、俺は家族の為にがむしゃらに働いた。
息子が小学生になった時、親父の気持ちが少し分かった気がする。

明日から学校は夏休み。
妻から家族旅行しようと言われた。

アスファルトとコンクリートだらけの東京の夏は、暑い以外に感じる事がない。
空を見上げる。
お世辞にも綺麗とは言えない空気、高層ビルに切り取られた青空、一本の飛行機雲。
何故か故郷の空が過ぎる。
清んだ空気、澄み渡った青空、立ち上がる入道雲。
東京とは真逆の景色が瞼の奥で重なった。

その夜、夢を見た。
俺が息子の歳くらいの頃の夢。
向日葵畑を駆け回り、昆虫を追い掛けている夢を…。

息子に本当の空と夏の景色を見せてやりたい。
故郷を飛び出して十五年…。
ふと帰りたくなった。
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