第9章 Amusement!〈栗花落 菖蒲〉
『え?え?』
「簪、付けてあげるわ」
『は、はい…!』
お団子の髪に玉簪の飾りがゆらゆらと揺れる。その簪を貰えた事が嬉しくて、少し揺らして見せた。
「気に入ってくれた?」
『うん。ありがと』
「そっか。それじゃあそろそろ帰る準備しないと」
『そうだね』
着付けて貰った場所に戻って東京へと帰る事にする。簪はそのままに。
「楽しかったね」
『本当、充実してた』
「僕もサッカー出来て楽しかったよ」
『毎日楽しそうだったもんね』
「そうだ、菖蒲!写真撮ろうよ!」
『良いけど』
太陽は盛れる?アプリを起動して写真を撮り始める。
『わっ…犬になってる…』
「凄いでしょ?」
『最近って凄いんだね…』
「はい、ピース」
言われるがままにピースをして写真を撮る。このアプリだとシャッター音がならないみたい。
「ありがと」
『うん』
「はぁ…もうちょっとで着いちゃう」
『良いじゃん、元の暮らしに戻れるよ』
「そしたら菖蒲に会えなくなるでしょ?」
『別に…年中部活な訳じゃないし…空いてる日ならいつでも出掛けられるし…』
「うん、じゃあ一杯誘うよ」
『程々で良い』
偶には家でゴロゴロしたい。
「次は東京〜東京でございます」
その声と共に降りる準備を始めた。これで、終わっちゃうんだ。
「菖蒲のお家まで送ってくよ」
『でももう結構暗いし…』
「だからだよ」
『…分かった』
お言葉に甘えて太陽に送って貰う事にした。
「やっぱりその簪、似合ってる」
『あ、ありがと…』
歩く度に揺れるそれが、実は結構気に入ってる。口に出して言わないけど。でも、その時だった。
「目標発見。これよりサッカーを消去する」
「え…」
「雨宮 太陽。これよりお前のサッカーを消去する」
サッカーを…消去…?そんな事、させない。太陽にはずっと笑ってサッカーをやっていて欲しい。こんな私でも、役に立てるのなら。
『太陽、逃げて!』
青く光が放たれる瞬間にそう叫んだ。
「でも!」
『あんたが消されたら元も子もない!早く!』
目の前が青白く染まっていく。太陽が遠く逃げていくのを確認して、そのまま光に身を委ねた。
カラン
簪が落ちる音がする。折角、太陽から貰った物なのに。ねぇ、私は、少しでも太陽の力になれた?少しでも…役にたてた?
ーー
「天馬、ボールを蹴るって気持ち良いね」