第1章 Prologue!〈栗花落 菖蒲〉
うちの家族は基本うるさい。姉の蓮華姉さんも母さんも、父さんも結局皆うるさい。そして大体ツッコミが追い付かない。
『はぁ〜…』
気を取り直して宿題に手を付けた。一年生の最初の方はヘドが出る程簡単なので、大体どの教科も最初の方はすっ飛ばしている。高校入試に向けて一年から入試対策をする様だ。
『雪音、無事でいてね』
中学生から与えて貰ったスマートフォン。間違った使い方はしないだろうという両親の信用の元に預けて貰ったので、基本連絡以外の手段としては使わない。
『太陽は携帯、持ってるのかな』
病院って案外退屈らしいから、太陽もさぞかし退屈しているのだろう。確かに話し相手が欲しくなるのも肯ける。何もする事がないって自由な様に見えてかなり退屈な物だ。
『よし、終わった。お風呂入って寝るか』
ペンを置いて、宿題のノートも閉じて端に追いやった。椅子から立ち上がってお風呂に向かう。髪の毛を纏めているゴムを解いた。長い髪は腰まである。日本人形の様に切りそろえられた髪でイジられるのが嫌でこうして纏めていた。姉はそもそもが癖っ毛で若干ウェーブがかかっている。
『はぁ…気持ちぃ…』
何だか今日はどっと疲れていた様な気がしたが、お風呂に入ればなんでも吹き飛んでしまう。これまで雪音が居なくなってから何処となく追い詰めていたけれど、今日太陽に会って、少し心が軽くなった気がした。あの人は不思議だ。明るくて、元気で…それでいて悲しそうで。
『何なんだろうな…』
中学生であんなに複雑そうな顔が出来るのだろうか。何故だかとても、大人びて見える。どうしてなんだろう。どうして、君と私はこんなにも違うんだろう。同じ…「中学生」なのに。どうして、抱えている物の大きさがこんなにも違うんだろうか。
『父さん、母さん、上がったよ』
「は〜い」
「菖蒲…さっきのは…!」
『あ〜もういいから。あんまりしつこいとお母さんに嫌われるよ』
「えっ…桜…」
「あらあら〜」
『じゃあ、おやすみ』
「ほ、本当に反抗期なのでは…?」
『はぁ…』
やっぱり、父さんが一番面倒臭いのかもしれない。何か知らない事を口走るといつも大体こうだ。やっぱり…どうしてもうちの家族はうるさい様だ。
『おやすみ』
「は〜い、おやすみ〜」
「ちょっと⁉︎菖蒲⁉︎」
若干涙目になりつつある父を他所に、自分は部屋へと戻り、目を閉じた。