第6章 Collapse!〈遠坂 雪音〉
いよいよ「仕事」の日がやってきた。突然の千宮路さんからの指令で驚いたけれど、同時にこれが最後だと勘付いた。
『雫ちゃん、行ってきます』
「気をつけてね…?」
『はい…!』
ぎこちなく笑った。きっと雫ちゃんも私がこれからどうなるかを分かっていたから、そんなに悲しそうな顔をするんだ。
『大丈夫ですよ。辛いのも…今日で終わりです』
「結局…雪音ちゃんを助けられなかったね…」
『いいえ。雫ちゃんは十分私を支えてくれました。雫ちゃんが居たから、今まで耐えてこられたんです』
「…」
『雫ちゃん。どうか、気に病まないでください。私は、雫ちゃんに助けられてここまで来たんですから。だから…笑顔で居てくれませんか?』
「うん!」
雫ちゃんの笑顔を見て、私は部屋を出た。向かうは千宮路さんの所。今日で…貴方との関係も終わりになるだろう。私は、二度と誰かを傷付けるサッカーはしたくない。
『千宮路さん…』
「ああ、君か」
少し焦っている様子だった。恐らく、雷門が勝っているからだろう。だから最後の砦である私達が呼び出されて、この人の為に戦わなくてはならない。
「行くんだ、良いね」
『はい…』
「今日は強めの物を打ちなさい」
「仰せのままに」
これが私の身体の中を流れ出したら、きっと私は自分の意思がなくなってしまう。何故なら、一定の濃度以上の薬を打たれれば、プログラムが発動する。プログラムは私の意思に関係なく、相手のチームを潰すために動く。
「間違いなく、大事な子だったよ。君は」
『あ…』
その言葉をきっと誰かに言われたかった。その誰かは…今ではもう手の届かない場所に居るけれど。
『私も…貴方の事を、父として見ていたのかもしれません…』
もう一度、叶うなら。私は父に会いたかった。優しい頃の母に会いたかった。穏やかな姉に会いたかった。もう、出来ないんだ。だから、貴方を家族として見る他無かった。
「おやすみ。雪音」
『はい、おやすみなさい。千宮路さん』
意識が塗り替えられていく感覚だった。目の前が砂嵐の様に荒れてくる。段々と平衡感覚も保てなくなって、床に膝をついた。これから、私は何をしてしまうのか。ただただ不安だった。お願い、もう、誰かを傷付けたくない。
『ごめん…なさい…』
何故か涙が出てきてしまったのだけは覚えている。それからは何も見えなかった。