第5章 Startle!〈栗花落 菖蒲〉
どうしよう。泣くつもり全然無かったのに、ボロボロと涙が溢れてくる。
「菖蒲」
一番辛いのは太陽なんだ。私が泣いちゃいけないのに。
「菖蒲、おいで」
『え…?』
「ほら、早く。ここ座って」
ベッドの隣の丸椅子に恐る恐る腰掛けた。その瞬間に頭を抱き寄せられて、また更に混乱する。
「心配かけて…ごめん」
『うん…』
「でも…どうしても雷門と戦いたかったんだ」
『太陽は…フィフスセクターなの…?』
「…うん」
あっさり認めた。でも…フィフスセクターである事にそんなに罪の意識は持っていない様だった。
「フィフスセクターに入る事で…入院費の援助を受けているんだ」
『あ…』
「菖蒲にはずっと言ってなかったね」
『うん』
「でも、本当に遠坂 雪音って子は知らないんだ。僕は見た通りずっと入院生活だし、本部に行った事なんて殆どなかった」
『それじゃあ…本部に行けば雪音に会えるかもしれないって事?』
「分からない。そもそもフィフスセクターに居るのかさえも怪しいんだ」
『多分、居るとしたらフィフスセクターだと思う。雪音は…サッカーだけは異常に上手だった。行方不明の理由があるとしたら…恐らくサッカーだと思う』
雪音は…本部に居るの…?
「でも…菖蒲は絶対に行っちゃ駄目だ」
『え…どうして…』
「余りにも危険すぎる。部外者が行ってどうなるか保証できない」
『でも…!』
「菖蒲が居なかったら、誰が雪音ちゃんの帰りを待つの」
『それは…』
私じゃ…何も出来ないの…?私、結局何も出来ないまま終わっちゃうの?
「菖蒲がもしフィフスセクターに捕まったら、今度は僕が許せなくなる。だから…お願いだから行かないで」
『…分かった』
雪音の帰りを待つしか出来ないけど…それが私にしか出来ない事なら。それを全うしよう。
『でも…取り敢えず太陽の手術が成功して良かった…』
「心配してくれたの?」
『べ、別に…』
「やっぱり菖蒲は素直じゃないなぁ」
『うるさい…!別に良いでしょ』
「げほっ…」
『あ、ごめん、長居し過ぎたね。今日はこれで帰るよ』
「ううん、大丈夫だよ」
『だめ、ただでさえ手術後で疲れてるんだから。ゆっくり休んで』
「ごめん、せっかく来てくれたのに」
『気にしないで。それじゃあね』
「うん!」
本当にあの時はびっくりしたけど…太陽が無事で良かった。雪音…私、待ってるから。