第44章 Memory!〈遠坂 雪音〉
「ダメだ」
『今のは良いよって言うところじゃん』
自分だけが期待してると分かってしまい泣きたくなった。泣きたくはないのに悲しくなって勝手に目尻に涙が溜まっていく。
「お、おい泣くな」
『泣いてない!』
どうして良いのか分からないと呆れながらため息を吐いていた。自分だけ本気で馬鹿馬鹿しい。それが確信に変わってどんどんと心が締め上げられる。
「なんでダメだって言ったか分かってないだろ」
『…』
「お前、これで満足したら戻ってこなくなるだろ」
『そんなことないし』
「お前は諦めるのが早い。環境のせいもあって当然だからそれは責めるつもりはない」
京介の言う通りだった。昔から劣悪な環境にいたからよく諦めていた。自分が我慢すれば良いだけと周りに頼ることを諦めて、家族に目を向けることも諦めて。何も私は努力しなかった。
『ううん。そうだよ。私我儘だ。自分だけ良い思いして、京介の事考えてなかった。馬鹿だね』
「…」
『ありがとう。断ってくれて』
元よりそのつもりだった。万が一なんてもっともらしい言葉で誤魔化して、本当は戻っても戻ってこなくても良かったと思っていたのかもしれない。自分がよく分からなくなっている。
『もう少しだけ一緒にいて』
「分かった」
京介が擦り寄る。寮には私達2人しかいない。お互いの心音と呼吸音だけがこの空間に響いている。
『手術が終わって元気に毎日過ごせるようになったら学校終わりに寄り道して京介とデートしたり、菖蒲ともっとたくさんお話ししたり、空ヶ咲と他の学校のサッカーに試合見に行って京介を全力で応援したり、他にももっともっといっぱいやりたい事あるんだ』
「そうか」
『京介は?なにかやりたい事はある?』
暫く悩んだような素振りを見せた後、重々しく口を開いた。
「お前と、一緒にいたい」
瞳が真っ直ぐ私を射抜いた。照れ臭くなって少し目線を逸らした。自分はデートしたいとか言った癖に卑怯だなって思う。
『わ、わぁ…』
「なんだ」
『そ、そんなにどストレートに言われると思ってなくて、心構えが…』
ふはっと吹き出して京介が笑った。なんだか思いっきり笑った所をしっかりと見たのは久しぶりな気がする。
『笑ったね』
「偶には笑ってるだろ」
『思いっきり吹き出して笑ってるから珍しいな〜って。私、京介がそんな風に笑ってるとこ見るの好きだわ』