第42章 HLHI Ⅷ〈栗花落 菖蒲〉
しかしまだ夢で出てきた女性との関わりが出てこない。恐らくこれ以上聞いても何も出てこないだろう。
『教えてくれて、ありがとうございました』
「これから生贄になるというのに愚かな人間よ。お前がいるだけで周りに不幸を齎すのだから、ここで死ねて本望だろう」
『不幸を、齎す?』
「そうだ。俺たちの術を半端に受け継いで人間ではあるものの邪悪な真髄を宿している。そしてその証拠がお前のその髪だ」
『この髪が原因で不幸を齎すという事ですか?ならこの髪をもっと切れば…』
「逆効果だな。お前の髪が短いせいで今不幸を引き寄せている。心当たりがあるんじゃないのか?」
図星な事が始めから分かっているかの様にいやらしく笑った。そうだ。雪音が急に手術をする事になって、私も何度か不審者に襲われた。これが不幸じゃない訳がない。私がそばに居たら、周りにいる大切な人までどうにかなってしまうの?
「菖蒲!」
気付いた時にはもう遅い。なんで。どうして今まで気が付かなかったんだ。
「菖蒲を返せ」
太陽の見た事ないくらい殺気だ。こちらまでブルブルと震えてしまいそうなほど。
「勝負をするなら、やっぱりこれだよなぁ?」
デスタがサッカーボールをボフンと踏み、それらしく太陽を煽る。今の彼に煽りは逆効果だという事を、デスタは知らない。
「受けて立つよ。早く君達に勝って話し合わなきゃいけないんだから」
私、どうするべきなんだろう。ここで戻れるとして、太陽の近くにいてはダメだ。そしてこの血を、この髪を、なんとかしなくてはいけない。
(聞こえますか?私の声が)
『聞こえる。貴方は誰?』
(それは貴方があの場所にもう一度訪れたら、ご説明致しましょう。一刻も早く、栗花落家へいらっしゃって下さい。貴方のその呪いを解きたいのなら、やらなくてはいけない事があります)
『分かった。栗花落の事情をなんとかしたら、私は太陽と一緒にいられるの?』
(約束致しましょう)
なら、私がやるしかない。私に呼びかけたという事は、私にしかできない事な筈だから。
「菖蒲!」
『太陽…あれ、試合は…?』
「僕達が勝ったよ。帰ろう」
『…うん』
もう少しだけ、世界での結果を見届けさせてくれないだろうか。私が居なくなっては雪音が苦労する事になってしまう。
(いいでしょう。しかし、なるべく早く、お願いします)
もう、時間がない。