第42章 HLHI Ⅷ〈栗花落 菖蒲〉
考え事が続いてここ最近眠りが浅くなっていた。判断力が鈍ったところで、雪音に渡された腕輪をなんの気無しに嵌めてみた。すると雪音は中に眠っていたヴィーナスに身体を乗っ取られて山目掛けて飛んで行ってしまった。なんでこんな夢みたいな事が起こっているのか、私にもよく分からない。
「お前だな」
『は…?』
すぐ後ろから声がして振り向いてみれば、いかにも悪そうな感じの見た目の人が立っていた。知らない人なのに、初めて会ったような気がしない。
「お前のその血に流れる古き術の業、元を辿れば俺たちに通づるものだ」
これは栗花落家の事を言っているのだろうか。栗花落のルーツについては知らないが、この人に聞けばわかるという事だろうか。
「さあ、魔界に来てもらうぞ」
『貴方に付いていけば、この血統の事を教えてもらえますか』
「生意気な人間だが、まぁ良い。俺たちに付いてくるという事は、即ち生贄になるって事だ」
『構わない』
この人についていけば、多分夢の事が少しだけでも分かる気がする。
「デスタまでいたのか…!栗花落!そいつから早く…」
『ごめんなさい、鬼道コーチ』
「菖蒲!早くこっちに!」
『太陽、ごめん。どうしても知らなきゃいけない事があるから』
「え、ちょっと、菖蒲⁉︎」
また黙って行って!って怒られるんだろうな。でも、この答えから逃げちゃいけない気がするんだ。
「お前達はそこで震えて眠ると良い!」
デスタと呼ばれる人が手を翳した瞬間、意識が途切れた。
「…い!…ろ!」
『う…』
「目が覚めたか?」
『はい』
「人間は物好きだな。答えを知るためだけに命を落とす覚悟があるとは」
『その覚悟に見合う答えを下さい』
「はははは!いいだろう。答えを教えてやる」
その不敵な笑い方が悪魔そのものという感じがする。
「お前のその血の匂い、間違いなく俺たちと同じものだ」
『私も人間じゃないという事ですか?』
「いいや、違う。お前達一族は全て例外なく人間だろうな。だが操る術が俺たちを起源としたものだ」
成る程。そういう事だったわけだ。だから私が選ばれたのもなんとなく頷ける。
「お前が生まれるずっと昔に、俺たちの術を勝手に真似した者、そいつがお前らの血を汚したものだ」
つまり栗花落家は元々呪術の家系じゃなかった。なんらかの原因があったと見ていいだろう。