第37章 HLHI Ⅲ〈栗花落 菖蒲〉
『…もう』
「今日の菖蒲も可愛い!ね、ヘアアレンジ僕がやって良い?」
『良いけど…できるの?』
「動画見た!」
太陽なりの励まし方なんだろう。髪の事はもう仕方ないのだ。それに何度も言っているが髪はいくらでも伸ばせる。
『じゃあお願いしようかな』
「任せて!」
櫛とゴムは私が持っているので貸してあげた。どうやら太陽はハーフアップがやりたい様子。
「実際にやってみると案外難しいんだね」
『そうだね。しかもそれ自分じゃ後ろ見えないし。それを毎日やってる女の子って本当に凄いんだよ』
私はいつも面倒で高くポニーテールにしているだけだ。太陽から貰ったかんざしは、付けていきたいけど失くしてしまったら嫌だから特別な時だけ付けるようにした。
「はい!できた!」
『本当に初めてやったの?上手だよ』
「えっほんと⁉︎」
嬉しそうに目をキラキラさせて、こちらを見つめている。なんだか可愛く見えてきて思わず頭を撫でた。
「菖蒲にこうしてもらうの好きだな〜」
『え、そうなんだ』
本当に気持ちよさそうに目を細めて、まるで猫みたい。いつもは犬みたいに元気なのに。
『ありがと。髪型。私ちょっと顔洗ってくる』
「はーい」
流石に歯ブラシは持ってなかったので家に荷物を取る時にやれば良いかと考えて、冷たい水を顔面いっぱいに浴びた。冷えた水が感覚を冴え渡らせるような気がして好きだ。
『お待たせ。私はもう準備良いけど、太陽は?』
「僕も大丈夫!行こうか?」
『そうだね。どうせ早めに行って練習したいんでしょ?』
「勿論だよ!きっと天馬たちも先に行ってるもん!」
相変わらずだと思いながら少し笑みをこぼした。本当に彼は生粋のサッカー馬鹿。
『はいはい』
なんかサッカーに負けた気がして悔しくはなるが、彼はそれ位で丁度いい。
「お母さん!行ってくる!」
「はーい。頑張ってね」
「うん!まずはアジア予選勝ち上がってくる!」
「菖蒲ちゃんも、頑張ってね。太陽の事よろしくね」
『は、はい!い、行ってきます…!』
「じゃあ2人とも、怪我とかには気を付けてね」
「『はい!』」
太陽のお母さんに見送られて家を出る。昨日の履いてきたままのローファーをトントンと響かせて。朝の眩しい光が気持ちよくて、この気持ちいい空間を太陽と一緒に歩けることが嬉しかった。
「菖蒲!行こう!」
『うん!』