第36章 HLHI Ⅱ〈遠坂 雪音〉
『今日から合宿所行くんだからしっかり!どうせ葵ちゃんの事迎えに行くんでしょ?なら早く準備しなきゃ』
「うん!」
天馬が起きたのを確認して次は私の部屋へ。
『京介』
着替え終わって、ぎこちなくベッドに腰掛けている京介がなんだか面白い。
『ふふ』
「なんだ」
『いや?なんか面白いなあって。好きな人の部屋に居るんだからもっと堂々としたら良いのに』
そわそわしてるのがバレバレな所が余計に面白い。彼は案外クールに見えるが、恋愛は初心。でもそういう所が好きだ。
『そうだ。朝ご飯できたよ。行こう』
「ああ」
京介が立ち上がるのを見て、私もニコニコしながら彼を待った。好きな人が朝から近くにいるというのは、言葉に表すのは難しいけど、凄く嬉しい。
「雪音」
『何?』
そのまま私の頬を掬う様に持ち上げて、唇に噛み付いた。優しいのに、どこか乱暴さも感じる。
「行くぞ」
『え』
かぷっと、まるで食べられたみたいで。こういうのを、本当に食べられると言うんだろうかと真剣に考えてしまいそうになる。急いで頭をブンブンと横に振って我に返った。
『ま、待ってってば!』
急いで京介の後を追った。この熱った顔をどうにかしないと、秋さんや天馬に見られてしまいそうで恥ずかしい。朝から何という特大な爆弾を投げてくれるんだ彼は。
「皆揃ったわね。さ、朝ご飯どうぞ」
「いただきまーす!」
「いただきます」
2人が手を付け始めたのを見て、私も急いで手を合わせて食べ始めた。
『いただきます』
目玉焼きをパンの上に乗せて、更にもう一つパンを乗せる。目玉焼きのサンドイッチだ。
「ご馳走様!」
相変わらずのいい食いっぷり。早すぎて追いつけないが、私もなんとか全て食べ切った。
「剣城!早くグラウンド行こう!」
「分かったから引っ張るな」
全く元気だなあと呆れつつ、私は秋さんのお手伝いを始めた。
「ありがとね。これで終わりよ」
『いえいえ。じゃあ私も準備してきます』
部屋に戻ってスーツケースを持ち上げて、仕上げにサイドテールのくくった部分に赤いリボンのポニーフックを付けた。
「行くぞ」
『はーい』
玄関で3人とも靴を履き、それぞれ大荷物を抱えて立つ。
「行ってらっしゃい。応援してるわ」
「うん!行ってくるよ秋姉!」
「お世話になりました」
『行ってきます!』
いよいよ、始まる。