第31章 Beauty!〈遠坂 雪音〉
そのまま京介を押し倒した。
「お、おい」
『とびっきりの笑顔、今ここで見せるから』
「は」
『ステージに登ってると恥ずかしくてあんまり笑えなかったけど、でも今ならできるから!』
背中から花火の音が聞こえる。京介の顔がほんのり赤く染まっている様に見えて。
『京介、剣城京介!』
「は、はい」
気迫に押されたのか敬語になってるし。
『愛してるよ!ずっと!』
自分に出来る最高級の笑顔。営業スマイルでも、ストレスに圧迫されたものでもない。今の自分が、京介と一緒にいるからこそ出来る顔。
「愛してる」
『あはっ、顔真っ赤』
「よせ」
目を逸らしてる姿がいつもと逆だな。なんて呑気に考えていた。
『ね、こっち向いてよ』
ゆっくりと京介の顔がこちらを向く。すかさず唇を奪った。
『大胆な私はどう?』
「悪くないな」
『素直に良いって言えばいいのに』
花火の音が煩い。でもそのおかげで早鐘を打つ私の鼓動も誤魔化せそうだ。
「隙ありだな」
『うわっ』
花火の音に集中していたら、いつの間にか背景が花火になっていた。さっきの京介にはこう見えてたのかな。
「綺麗だ。一段とな」
『知ってる。ずっと京介が言ってくれたから。だから今日の私は綺麗だなって思える』
「ああ」
これから、残酷な事を言わなきゃいけないのは気がひけるけど、京介には感謝してるんだ。
『ねぇ京介。私が明日、居なくなったらどうする?』
「何を…言ってるんだ」
『私ね、残り半年を過ぎたら、死ぬかもしれないんだ』
「な、ん」
その瞬間、京介の顔が大きく歪んだ。
『小学校の時から虐待と、フィフスに攫われてからは身体に見合わない無茶な練習にドーピング。事故にまであって、目覚めてからもストレスを受け続けてきた』
「そ、れは」
『思ったより、私の身体はボロボロだったみたい。大分回復はしたんだけどね、手術をしなきゃいけないんだ』
知ってるよ。お兄さんに重ねてる事を。
『手術は半年後。成功率は五分五分。生き死にが掛かってる』
「ゆ、きね…」
『ごめん。本当は言わない様にしようと思ったけど…でも言わない方が京介を傷つける事分かってたから』
京介の頬を包み込んだ。風に当たって少し冷えてる。
『もし、仮に手術が失敗しても、私最後まで笑ってたいんだ。今日みたいに。だから、ずっと隣にいて。お願い。』