第28章 Prisoner!〈栗花落 菖蒲〉
『そうですか…それなら良かった…』
家族が無事な事を聞いて兎に角安心した。お婆様に誤解されていた結果こうなってしまったことを悔やむが、どうしていれば良かったのかも分からない。蓮華の様に強く反発していれば良かったのかとも思うが、それはそれで違う未来が待っていて、もっと酷い結末になったかもしれないし、今の様に酷くはなっていなかったかもしれない。何かあると過去を悔んでしまう私の癖だが、今回は自分のせいでこんなに大きな事を巻き起こしてしまったのだから、悔やむしかないのだ。
「菖蒲。後悔する必要はないよ。悪いのは間違いなくあっちなんだから」
『太陽…』
「寝てて良いよ。疲れたでしょ」
『うん…』
太陽に膝枕を促され横になるが、見た目とは裏腹に筋肉質で割とゴツゴツしていた。中学1年生で初めて会った時から早3年。太陽ももう元気にサッカーできる様になって、今はFWとしてガンガン点を取る役目を担ってる。この脚で点を取ってるんだと思うとなんだか凄い別次元の様に思えてしまう。
「あ〜あ〜。いちゃつき始めちゃった」
「いやー青春だね。ここに瑠璃がいたら良かったんだけど」
「…」
皆して冷やかしに全振りしてくる。目を瞑って照れてないふりをするが、割と恥ずかしかった。剣城君と雪音は人前でいちゃつくタイプではないからここでは甘い雰囲気になりそうにはないけど、仮にこの場に瑠璃さんが居たら間違いなくヒロトさん達もイチャイチャし始めていただろう。
「菖蒲、照れてる?」
聞こえないふりをしてそっぽを向いた。構ってくれなくて寂しいのか、太陽が私の頭を撫で始める。あったかくて、心地よくて、お母さんとはまた違った安心感があって、兎に角撫でてくれる事が好きだ。
『照れてないもん…』
「そっか」
そう言いながら私の頭にキスを落とす。母親が子供に眠る時にしてくれる様な優しいキスだ。
「おやすみ、菖蒲。ゆっくり休んで」
『たいよ…』
「うん、僕はここに居るから。おやすみ」
『うん…』
瞼が重くなっていく。記憶を改竄されて、元の状態に戻るまでに脳にかなりの負担がかかっている事だろう。それから森の中の闘争劇に、実際の応戦。色んな事が積み重なって、しかも横になったからか疲れがどっと押し寄せてきた。探る様に太陽の手を掴んで握る。安心して眠れる状態になったところで、意識を深く落としていった。