【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第74章 ◇第七十三話◇雨に消えるレインコート【恋の行方編】
昼過ぎまで続いた駐屯兵団との合同演習中は快晴だったから、ツイているのかもしれない。
でも、こんな雨の日に馬の餌やり担当なんて、本当にツイていない。
兵団支給のレインコートを羽織ってはいるけれど、役に立っているとは思えなかった。
身体に打ちつける雨が、肌の上にまでしみ込んで気持ち悪い。
兵団服のズボンの裾なんて、跳ねた泥水で茶色くなっている。
ブーツの中にまで雨が入っていて、ちょっとした川遊びでもしているみたいだ。
アルミンは、黒くなりだした空を恨めしく睨みつけた後、空になった餌箱を抱え直した。
「------。」
どこかから人の話し声がして、アルミンは辺りを見渡した。
兵舎を土砂降りの雨が黒く濡らしていて、地面も泥水で溢れている。
こんな最悪な夜に、わざわざ宿舎から出てくる変わり者がいるとは思えなかった。
(あっちかな?)
倉庫に餌箱を片付けた後、アルミンは声のした方へと足を向けた。
厩舎の奥に裏門がある。
そこに、アルミンと同じように兵団から支給されたレインコートを着た誰かの後ろ姿を見つけた。
(裏門で何してるんだろう?)
なんとなく近づけない雰囲気を感じて、アルミンは建物の陰に隠れる。
レインコートを着た兵士と思われる人物が、裏門の向こうにいる誰かに何かを渡しているのが見えた。
でも、激しい雨に隠されて、それが何かまではハッキリ分からなかったが、兵団服だったような気がする。
激しい雨の音が五月蠅いが、途切れ途切れに誰かが話しているのが聞こえる。
「ーすーーぜ。」
「てーーーーーたーーへーーーーからー。」
「これーーーーーーしーーーに、へやーーーろーーよ。」
「-----。いったいーーーーき。」
「ーーないーーーーーーんだー。」
「…ーーーわ。」
女の人と男の人の声が、それぞれする。
でも、レインコートを着ているのが女なのか男なのかまでは分からない。
(女の人の声、聞いたことがある気がする。…どこでだっけ?)
聞き覚えのある声に、アルミンは記憶を必死に手繰り寄せる。
こんな雨の日に隠れて裏門で落ち合って、コッソリ何かを渡している。
良からぬことを考えているに違いない。
そんな直感はあるけれど、それが何かなんて見当もつかない。
せめて、誰かだけでも分かればー。
そう思ったが、結局わからないまま、レインコートの人物は雨に紛れて消えてしまった。