【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第56章 ◇第五十五話◇もう二度と戻れない日常【恋の行方編】
そう、信じていてもー。
ツラいのは、リヴァイ兵長がいないからで。
私がツラいことを乗り越えられてきたのは、リヴァイ兵長がいたからで。
だから、私は前を向く力を自分で何とか手に入れるしかなくて。
(私も一緒に行けばよかったなぁ~。)
小さく目を伏せて、足元に落ちていた小さな石を蹴る。
コロコロと転がっていった石は、張りぼての向こう側に消えていった。
こんな風に、リヴァイ兵長のことが好きだというこの気持ちも、遠くへ飛ばせてしまえればいいのにー。
「ミスった…っ!」
先に訓練を始めていた先輩兵士達がお互いに掛け合う声は、さっきからずっと聞こえていた。
だから、焦ったような先輩兵士の声も、私の耳にはその中のひとつに過ぎず、全く気にならなかった。
「!!屈めっ!!」
ハンジさんの怒号のような叫びが聞こえて、私は驚いて顔を上げた。
そして見えたのは、先輩兵士達が自主練をしていた場所から真っすぐに私のもとへ飛んでくる超硬質ブレードの折れた刃と焦った顔をしているハンジさんと、それからー。
屈むことも避けることもせず、突っ立っていただけの私にドンッと何かが体当たりしてきた。
思わず小さな悲鳴を上げた私の身体は、気づくと大きな兵団服の腕の中に抱きしめられていた。
その向こうで、木の幹に斜めに刺さっている超硬質ブレードの折れた刃も確認できる。
「怪我はないか。」
折れた刃から私を守ってくれたのは、ミケ分隊長だったようだ。
私を助けるときに倒れこんだミケ分隊長は、尻もちをついた格好で私を腕の中に抱きしめていた。
そして、大きな身体にすっぽり包まれ呆然とする私を、心配そうな顔で覗き込む。
「ミケ、よくやったっ!私が褒めてやろうっ!!」
駆け寄ってきたハンジさんは、私が無事だったことに安心して笑顔を見せた。
それからすぐに、力加減を誤って超硬質スチールの刃を折ってしまった先輩兵士や彼と一緒に自主練をしていた先輩兵士も駆けつけて、何度も頭を下げられた。