【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】
第43章 ◇第四十二話◇優しい声の使者【調査兵団入団編】
調査兵団を辞めてストヘス区の家族の元へ戻って数日が経っていた。
トロスト区で暮らしていた実家よりもだいぶ大きな家は、分不相応で落ち着かない。
使ってもいいと用意してくれていたこの広い部屋もまだ慣れないけれど、それでも、家族は楽しそうにやっているようだった。
仕事に困ることもなく、エルヴィン団長が懇意にしている貴族の女性が時々顔を出しては、母の話し相手になってくれているらしい。
調査兵団を辞めてからもこうして、家族でストヘス区にいられるのだから、あのとき覚悟をして入団を決めて良かった。
良かったのだー。
「いつまでも部屋にこもってないで、たまには外の空気を吸って来なさい。」
部屋の扉を勝手に開けて、母がため息交じりに文句を言う。
小言を言われるのも久しぶりで、懐かしく感じる。
エルヴィン団長が、私がストヘス区に帰ってくる理由をなんと家族に伝えたのかは分からない。
父も母も娘が帰ってくるということは知っていたようだったが、その理由については何も言わない。
もしも、エルヴィン団長から調査兵団の兵士をしていたということを聞いてしまったのなら、きっと大騒ぎしていそうだから、そこは伏せて、うまく話しているのだろう。
変なことを言って蒸し返したくもないので、わざわざ私から話すこともしていない。
「は~い…。」
やる気なく答え、また母が繰り返す小言を聞き流しながら玄関へ向かう。
家を出ると、柔らかい風がスカートを揺らした。
母が強引にでも私を外に出した理由が分かった気がする。
今日は散歩日和だ。
エルヴィン団長が用意してくれた家族の家は、ストヘス区の壁際にあった。比較的、緑の多い自然豊かな場所だ。
元々は別荘だったと聞いているが、この場所を別荘地に選んだ理由がよくわかる。
散歩をするにはちょうどいい景色が広がっていて、気持ちがいい。
憲兵団施設のある中央広場に行くのは、まだ勇気が出ない私は、壁に沿って歩き出した。
もう少し、心が落ち着いたら、勇気を持てるようになったら、アニに会いに行きたいと思っている。
生きて帰ってくると約束をしたのに、連絡もなにも出来ずにいる。アニが私の生死を気にして心配しているとは思えないけれど。