第9章 彼女の願い事
眩しさに瞑っていた目を開ける。
「父ちゃん!!」
最初に見えたのはルフィの笑顔。その隣に座ったアンはうさぎみたいに目を真っ赤にして、瞼を拭っていた。
「……来てくれてたのか…」
「…心配したのよ、シャンクスのばか…」
アンの目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
拭ってやりたいのに、身体は色々な管に繋がれて動けない。代わりに酸素マスク越しに声を絞り出した。
「……色々、ごめんな…」
ずっと謝りたかった。
約束を守れなかったこと、全部アンに背負わせてしまったこと。
「もっとちゃんと謝ってもらうから、早く元気になって」
シャンクスが少し笑った。母が太陽みたいと言った笑顔が本当はずっと見たかったし、謝りたいのは自分の方だった。
面会を許されたのはわずかな時間。アンは立ち上がって、シャンクスのすぐ近くに行く。
「…ひどい言い方で突き放してごめんなさい、お父さん」
お父さんと呼ばれたのはそれが初めてだった。一緒に暮らしていたときも彼女はずっとシャンクスと呼んでいたから。
アンは看護師に会釈すると、「また明日」と言ってルフィを連れてICUを出て行った。
「…ツンデレ、さいこう……」
「意外と元気だな。オペ中に何回か心臓が止まりかけたんだが」
独り言だったのに、近くにいた主治医にはしっかり聞こえていたらしい。
「経過は今のところ良好だ。2、3日様子を見たら一般病棟に移れるだろう。……訳ありみたいだがよかったな」
「よくわかっていねぇが、先生、色々世話になる」
「世話かけられるぐらいがちょうどいいんだ。特にシャンクスさんには」
ローは意味ありげな笑みを浮かべた。
その意味に気づくのは、まだしばらく先のこと。