第1章 さよならの代わりに
それから数日が過ぎ、今回の壁外調査で心臓を捧げた兵士の弔いが行われた。
彼女の笑顔のような桃色の花束を手に持ち、リヴァイは1人その墓の前に佇んでいた。
街にまで花を買いに行き、綺麗に包装までしてもらった。
墓の上に花束を置き、腰を下ろした。
この暗い地の下にいるのか分からないが、リリーへ喋りかける。
ー2人で紅茶を飲みながら過ごす夜のように。
「なぁ、約束破りやがったな。…今年の誕生日も祝ってくれるんじゃなかったのか。
最近は自分で紅茶を入れてるんだ。前は、自分で入れるのが一番うまかったのに、今はお前の入れた紅茶の方が数十倍うめぇ。どうやって入れてたんだ?
…いや、違うな。お前が入れたからうまかったんだな。
お前も気付いてたかも知れねぇが、俺はリリーのことが好きだった。
俺の人生の中で、恋するなんて思ってなかったんだ。俺は幸せになってはいけない人間なんだと思ってたが、お前に惹かれる気持ちは止められなかった。
きっと、俺はこれからもお前だけを想って生きていくんだと思う。」
一度、目を伏せてから、再び目を開いた。
「リリーが前に言っていた生まれ変わりの話、俺は信じてるからな。」
そう言って立ち上がる。
「また来る。」
果てしなく広がる青空。
心地よい風が花束を揺らした。
きっとその風は、彼女が最後に伝えたかった想いをのせた風だったのかもしれない。