第12章 エピローグ.Reliance
8月末。璃保は1人とある場所を目指して歩いていた。
璃保が今いるのは、県東部に位置するスピラノや鮫柄のある都市から遠く離れた県西部にある都市である。
璃保の実家のある場所、佐野町に引っ越す前の汐が住んでいた場所、さらには汐たちが通っていた小学校がある場所でもある。
ツクツクホウシの鳴き声に夏の終わりを感じた。
やがて目的の場所に着き、足を止めた。
璃保の前にあるのは、青く磨かれた墓だった。
それには上嶋という名が刻まれていた。
璃保が訪れたのは霊園であった。
お盆のときに璃保は墓参りをすることが出来なかった上に、3週間先の9月の彼岸にここに来ることは不可能であるため、今日に至る。
「海子、久しぶり」
そう言って墓に触れた。まだ築いて年月が浅い。
つやつやと青みのある光沢が美しい。
ひんやりと冷たい無機質なそれは、記憶の中の海子の笑顔とは正反対なものであった。
「今日ね、汐に内緒で来ちゃった」
穏やかな声で語り掛けた。
線香の香りが立ちのぼる。
璃保は静かに瞑目した。
(昔、アンタ言ってたわよね)
まだ海子が生きているとき。こんなことを言っていた。
(汐には本当に好きな人に出会って幸せになってもらいたい、って。汐が幸せならそれでいいって)
本当に好きな人。今なら彼女も胸を張ってこの人が好き、と言えるだろう。
先日汐が泣きながら璃保へ電話をしてきた。
普段まったく泣かない汐が泣いていて驚いた。
どうしたのと訊いたら、凛に好きだって言われて、嬉しくて、と言っていた。
告白されて嬉しくて泣いていた汐を見るのは初めてで何も言えなくなってしまった。
汐の初恋が実ってよかったと心から思った。
7月のあたま、汐が風邪で学校を休んだ日の夕方に彼女からかかってきた電話。
改まって話があると言ってきたから少し身構えたことはまだ記憶に新しい。
少し恥ずかしそうに、好きな人ができた。と電話で伝えられた。
とても驚いた。思わず、は?って言ってしまった。