第7章 今日くらいはいいだろう?【エルヴィン】
夜の帳が下りても調査兵団13代団長の仕事は終わりそうにない。
机に突っ伏したくなっているだろうに、エルヴィン団長は背筋を伸ばし凛とした佇まいを崩さないのだ。
「テメェ、俺はもう眠いぞ」
目を擦るリヴァイ兵長を合図に私は席を立ち、お茶の準備に取り掛かる。
ティーカップをお湯で温め、適量の茶葉をポットにいれお湯を注ぐ。兵長はもちろんのこと、団長も紅茶は大好きだ。重責を担って働くお二人のお役に立てる事・・残念ならが今の私では美味しい紅茶をいれる事くらいだ。
砂糖の塊は希少だから手に入らない。代わりに焼き菓子を数枚添えることで少しでも疲れを取って頂ければと思う。お湯の温もりを手に感じつつエルヴィン団長を・・いや、お二人を想ってお茶を準備するこの時間が私は好きだ。
トレイに載せてアールグレイの香りを団長室に運ぶも、そこにリヴァイ兵長はいなかった。
「お茶の用意ができましたが・・兵長はどちらへ?」
「部屋に戻った。もう寝るそうだ」
ひと段落ついたのだろうか。肩を回しながら団長が答える。
私が調理場でぼーっとしすぎたのだろうか。労うための紅茶が台無しになってしまった。
「おや?お茶を淹れてくれたのか?ではひと息入れよう。こっちにおいで、一緒に飲もう」
団長は椅子からソファーへ移動し、私に手招きをする。
「私がモタモタしていたばかりに、申し訳ないです」
しょげた私に微笑みかけ、彼は自分の横のスペースを叩く。“こっちにおいで”の合図だ。
気持ちはとうの昔に通じ合ったはずだが、多忙な団長と補佐官の私では2人きりになれても仕事で忙殺され、それどころではなかった。
トレイに乗った紅茶が震えて零れそうだ。
「失礼します」
堅くなった身体がソファーに沈む。団長は優しく私の髪をひと撫でし終わると途端に声を上げた。
「よっこいせ!」
右足を曲げ、ストレッチをするように両腕で抱える団長を初めて見る。何てことない姿だ。しかし、いかなる時も背筋を伸ばしたエルヴィン団長しか知らない兵士は驚く光景だろう。唖然とする私に気付いたのか、彼は苦笑いをした。
「もう俺も歳だからな。他の兵士には見せられない姿だな」