第11章 帰還3
あつ姫の朝餉を用意する為、天主を出て足早に歩いていた如月は、難しい顔をした光秀に出会した。
だが、考え事をしているようで光秀は、如月に気付かず通り過ぎようとしていた。
「光秀様?……光秀様ッ!」
「……ああ、お前か……」
如月の大声でやっと気付いた光秀だったが、難しい顔をしたままだ。
まあ、その理由は如月には分かっていたが、特に自分からは何も言わず、挨拶だけして通り過ぎようとした。
「……待て」
光秀は、如月の腕を掴み、その足を止めた。
無論、あつ姫の朝餉の用意で急いでいた彼女は苛つく。
「光秀様、先程の件なら、後程信長様よりお話があると思います。私はあつ姫様の朝餉の準備がありますので失礼致します」
「あっ、おいッ!」
光秀の手を振り解くと、呼び止められるのも無視し、さっさとその場を立ち去る如月。
光秀は武将だが、如月にはそんな事は関係ないのだ。
彼女の後姿を見ながら、大きな溜め息を吐いた光秀は、仕方なく、城の自室へと向かったのだった。
同じ頃、
私は、夢を見ていた。
大きな巨石の前に立ち、私は、それを見つめていた。
そして、誰かが私を呼ぶ声に気付き、振り向くと真っ白なマントにフードを目深く被る謎の男が居た。
私は、妙に苛つき、その男から視線を外した。
「貴様、私の夢の中まで来るとは良い度胸だな」
「まあな。……だがあつ姫、これが自分で作り出した夢だと理解しているんだな?」
「当たり前だ。本来、私は夢など見ない。だが、嫌な気分になり、この城に巨石があるのを思い出して、ここに来た」
「そうか……あつ姫、お前は純粋無垢だ。だから、この時代は危険過ぎる。……俺が元の時代に返してやっても良いが……」
「やめろッ! そんな事をしたら織田信長が……」
私は、男の言葉に怒り、つい声を荒げたが、その先を言うのが憚られ、口を噤んだ。
だが、他にも思い出した事が有り、再度振り向き、男を睨んだ。
「……始祖、貴様……私に感情の一部を戻したな?」
「……⁈ あつ姫、俺を思い出した、のか?」
「それには答えない。父の元に戻る」
男を無視し、私はゆっくりと目を閉じたのだった。