第98章 役者は揃った<参>
妓夫太郎に向けてクナイを放った女性の名は雛鶴。宇髄の妻の一人で、京極屋に潜入していた。
雛鶴は蕨姫花魁の正体が鬼だということに気づき、鬼側からも警戒されていたため身動きが取れずにいた。
毒を飲み、病に罹ったふりをして京極屋を出たものの、警戒した堕姫に帯の使い魔を渡されてしまっていた。
しかし彼女は宇髄によって救出され、吉原を出るように言われていたのだが、その言いつけに背きこの場に立っていた。
彼女の使ったクナイには、藤の花から抽出された毒が塗られていた。数字を持たない鬼なら、半日身体を麻痺させることができ、下弦の鬼ですら動きを封じることができた。
しかし、今汐達が対峙しているのは上弦。今までにない事例のため、毒が効く絶対的な保証はなかった。
(お願い、効いて。ほんの僅かな間でいいの。そうしたら、誰かが必ず頸を斬れる!!)
雛鶴は縋るような思いで、戦う夫とその部下たちを見つめた。
汐、炭治郎、宇髄の三つの刀が妓夫太郎の頸に迫り、その刃が届こうとしたその瞬間だった。
妓夫太郎の足が音を立てて生え、それと同時に束縛歌を振り払った。
(束縛歌が・・・切れた!!)
(足が再生!!畜生、もう毒を分解しやがった!!)
顔を歪ませる宇髄を嘲笑うように、妓夫太郎はにやりと笑みを浮かべた。