第155章 真実(後編)<肆>
「違う、違うんだ。汐が、いつもの汐が戻って来たんだって思ったら、嬉しくて・・・」
炭治郎はそう言って顔を上げた。そして汐の顔を見て、顔をほころばせた。
そこには、濁ったガラス玉のような目ではなく、どこまでも澄み切った海の底のような目があった。
今まで見たことのない程、美しかった。
「おかえり、汐」
そんな汐を見て、炭治郎の口からは自然と言葉が漏れた。汐は一瞬驚いた顔をしたものの、はにかみながら答えた。
「ただいま、炭治郎」
そしてそのまま、汐は炭治郎を見つめ、炭治郎もまた汐を見つめた。
目に入るのは、互いを映した透き通った瞳だけ。
それからそっと、ごく自然に顔を近づけた、その時だった。
「カァ!カァ!!」
外から鴉の鳴き声が聞こえ、二人は慌てて離れた。互いにそらした顔は、耳まで真っ赤になっていた。
「あ、そ、そうだ。俺、ご飯を作るよ。汐は昨日から何も食べてないだろう?」
「それはあんたも一緒でしょ?あたしも手伝うわ」
「いいよ。汐は休んでてくれ。俺が作るから。あとそれと、お風呂も沸かしておくよ」
炭治郎はそう言って足早に部屋を後にした。呆然としていた汐だが、ある事を思い出して顔を引き攣らせた。
「部屋、片付けないと・・・」
その後、炭治郎と一緒に部屋の掃除をすることになるのは言うまでもなかった。