第1章 お嬢様の好きな人
「姫」
「朱莉ちゃん、おはようございます」
「おはようございます、ってか、もう昼過ぎてるけど」
「まぁほんと。朱莉ちゃんこそこんな時間にどーしたのです?」
「ん?ああ、寝坊。それより大丈夫?鷹司(たかつかさ)のやつに苛められてない?」
「薔さまに苛められたことなどありませんわ」
時々朱莉ちゃんは変なことを言います。
「無自覚なとこが危ないんだってば」
「?」
よしよし、と頭を撫でながらぎゅーっとされれば、小さなあたしはすっぽり朱莉ちゃんの腕の中。
「朱莉ちゃん、いい匂いします」
「え?」
「シャワーでも?」
「ぇ、あ、うん。来る前にね」
「やっぱり、石鹸のいい匂いがしたので」
にっこりと朱莉ちゃんの腕の中で微笑むと、気まずそうに視線を反らす朱莉ちゃん。
「?」
あたし、変なことでも言ってしまったのでしょうか。
「……望月 朱莉」
「……げぇ」
「薔さま……いえ、鷹司先生」
「華、いいよふたりの時は」
「あたしいるんだけど」
「……堂々と重役出勤ですか」
「こーわ」
「薔さまは怖くなどありませんっ」
「はいはい、そうね、姫にはね」
「?」
「余計な知識を華に与えるのやめて頂けますか」
「姫には一般的な知識が必要なんだよ」
「僕が教えます」
「それが危ないんだってば」