第8章 〝仇〟(※裏有)
雄英体育祭が終わったその日の夜…ーー。
私はいつも通り夕飯の支度をしていた。今日は頑張った自分にご褒美で私が大好きなホタテとサーモンのカルパッチョ。この暑い時期さっぱりした物が食べたくなる。あとは冷製スープ。リビングには、持ち帰った仕事に打ち込む消ちゃんがいて何ら変わりないいつもの夜のはずだった。けれど、今日の消ちゃんはどこか機嫌が悪そうで、ただでさえ悪い目付きがさらに悪くて、口もへの字。何があったのかは聞かない方がいいのかと思っていたんだけど…
「ねえ、消ちゃん聞いてる?」
「………」
何を聞いても、話の話題を振っても彼は口を開こうとしなかった。その姿はまるで、お気に入りのおもちゃを取り上げられた子どものようで。
「もう…何か言ってくれたっていいじゃない」
こっちも意固地になって、ぷいっと顔を逸らしてしまった。今はそっとしておいた方がいいのかもしれない…私はスープを煮込んでいる間に洗濯物を片付けようと、リビングのフローリングに座ると、カゴに入れてあった洗濯物をたたみ始めた。いつもとは違う雰囲気になんか落ち着かない。
「…お前、なんであの時爆豪を応援したんだ」
「え…?」
突然そう声をかけられて、洗濯物を畳む手を止めた。顔だけ消ちゃんの方へ向けると、彼は体ごと私の方へ向けていた。
「そ…それは…」
「…爆豪と付き合うのか?お前は…爆豪の女にならない為勝ち続けなきゃいけなかったんじゃないのか。」
「…そうだよ」
「それじゃあ、その勝ち続けなきゃいけなかった理由はなんだったんだ」
そう言うと消ちゃんは椅子から立ち上がると私の前にしゃがんだ。
「そ、それは体育祭前に話したよ?四楓院月影の娘が来たって事を…」
「本当にそれだけか?」
「ー…!?」
私の言葉を、彼は見透かしているかのように遮った。どうして、そこまで迫ってくるの…私の事、ただの子どもとしか思っていないのに…私の気持ちなんて知らないくせに…期待させないでよ。USJ事件の時言った『今は』の言葉も、体育祭の前の証も…消ちゃんが少しでも私に気があるんじゃないかって思っちゃうじゃない…!