第4章 訓練初日
結局、カウンターに突っ伏して寝落ちしたバカを見て溜息をこぼす。
チッ面倒くせぇ。寝顔を見つめながら置いて帰ろうかと、わりと本気で悩んでいると、カウンター越しから小料理屋の女主人の笑い声が聞こえた。
「可愛い恋人さんね。」
「…ただの部下だ。」
「あらあら、それにしては優しい目で接するのね」
優しい目?俺が?
もう一度リラの寝顔に視線をおろして考える。認めたら何かいけない気がして、舌打ちを一つして勘定をもらう。
「また来る」
勘定を済ませた後、リラを背中に背負って帰路についた。
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街中で男が泥酔している女性を背負ってる姿というのは、なかなか見ない。帰路につきながら、注がれる視線に思わず舌打ちがでてしまう。
肩から垂れた髪の毛を頬に感じながら、今日リラに対して感じた事が頭の中を巡っていた。
まず、リラの掃除のクオリティーに驚いた。
俺が朝早めに行って掃除をするのは日課になっていたので、今日も例外なく早めに行ったのだが、そこにはリラが掃除をしている姿があったのだ。
掃除のクオリティーを確認するのに机の下を触ってみたが、そこにも埃などはなく綺麗に拭けていた。ここまで拭けているとは……、悪くない仕上がりに、これからの朝の清掃がより楽しみになった。
そして、こいつは相当な負けず嫌いである事が分かった。階段での訓練では、初日だし途中でタオルを投げ入れようとしたが、甘い誘惑をひと蹴りして、先輩達に自分の訓練に付き合ってくれと頭を下げていた。
最後に手を出してしまったのは無意識で、気が付いたら体が動いていた。
オルオには悪いことをしたが、後輩に身を持って教育をしたと言えば聞こえはいいだろう。
そして最後に感じたのは、違和感だ。
第1中隊…の中でもリヴァイ班が中心となって追っている、世界的に有名なテロリストについてまとめるよう指示したが、妙にあいつは詳しかった。ニュースで見たとか何とか言ってたが、そんな少ない知識だけでは書けない考察が沢山まとめられていたのだ。
別にGSG-9になる為に勉強したとか素直に言えばいいものを、あいつは何かを隠すように嘘をついていた。
その場では追及しなかったが、俺の中で引っかかるものがあった。