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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第5章 見返りはパン以外で




くれは医院と看板が掲げられたそこは、古めかしい病院だった。

「なにをぼさっとしている。ほら、来い。」

腕を引かれて病院内に入ったけれど、いちいち手を掴まなくても歩いていけるのに。

「あれ、ロー。ひさしぶり、どうしたんだ?」

「トニー屋、急患だ。バアさんはいるか?」

「うん、いるよ。診察室。」

「邪魔をする。」

受付をしていた青鼻の少年に話し掛けたら、勝手に奥の診察室へと足を向ける。
どうやら、この病院の人たちとは知り合いのようだ。

診察室のドアを開けると、ゆったりとした革製の回転椅子に座っていた医師がくるりと振り向いた。

「バアさん、ちょっとこいつを診てやってくれ。」

「口の利き方にゃ気をつけな、トラファルガーのガキ!」

くれは医院の院長は、Dr.くれは。
130歳を超えてもなお現役医師である彼女は、医療業界で生きた化石と呼ばれる大ベテランの名医である。

「ん……、患者はそっちの娘かい。こっちに来な。ヒッヒッヒッ、ハッピーかい?」

促されるまま椅子に座ると、くれはは人差し指をムギの額に当て、肌の温度の差だけで体温を測った。

「んん、39.2度。拗らせたね、小娘。」

「え……。」

「頭痛に喉の痛み、関節痛と食欲不振ってところかい。」

「えぇ……!」

すごい、すべて当たっている。
一般的な風邪の症状なのだとしても、吐き気や腹痛がないとか、喉が痛くても咳が出ていないとか、瞬時に判断できるのは人間技ではなかった。

「風邪に加えて、過労と栄養失調ってところだね。薬は出しておくけど、一番は食事と睡眠だってことを忘れんじゃないよ!」

「は、はい。ありがとうございます。」

「礼には及ばないよ。診察費として、財布丸ごと置いていきな。」

「え、えぇッ!?」

「冗談だ、馬鹿。ほら、行くぞ。」

ブラックジャック並みの医療費に驚愕したムギの首根っこを掴み、ローが受付まで引きずっていく。
よかった、ローがいなければ本当に財布を置いていくところだった。



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