第5章 見返りはパン以外で
ムギの中で風邪とは、寝ていれば治るものである。
たいていの不調というのは、しっかり寝れば快復するものだし、今までだってどうにかなってきた。
痛み止めの薬はともかくとして、風邪薬はあまり信用できない。
高いくせにちょっとしか入っていなくて、全部飲みきっても効かないことがしばしば。
病院もまた同じようなもので、ちょっと喉を覗いたくらいで「風邪だね~」とわかりきった診断をする。
処方された薬は市販よりも安いけれど、診察料を入れたら変わらないくらいの額になる。
そのくせ、やっぱり治らないことも多く、ゆえに病院へはあまり行かない。
寝ていれば治る、寝ていれば治る、たぶん。
「……上がってる。」
昏々と眠り続け、目を覚ましたのは昼すぎ。
喉の渇きを覚えて起き出したものの、火照る身体は良くなるどころか悪化の一途をたどっていた。
(そんなにすぐに治るわけないか。ご飯も食べてないし……。)
汗を拭いたり、ご飯を作ってくれるような家族はいない。
どんなに体調が悪くても、自分のことは自分でやらなくてはいけないのだ。
(とりあえず、なにか食べなくちゃ。)
寝室を出てふらふらキッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。
なにもない。
そういえば、土日に買い物をするのを忘れていた。
冷凍庫を開けたら、カチコチに凍ったパンが顔を出した。
食べきれないパンは、速やかに冷凍保存するようにしている。
本当は自然解凍するのが一番美味しいのだが、さすがに待てないので凍ったままオーブンに突っ込んだ。
(パンだけじゃダメ、だよね……。)
己の回復力に頼るなら、栄養のある食事は必須である。
冷蔵庫には細々した材料が残っているものの、それらを使って料理を生み出す技術はない。
ムギは料理が下手なのだ。
(買いに行くしかない、か。)
身体の節々が痛むのを堪え、パンを食べたら外に出ようと決めた。